第19話 「親父、チャカ一丁!」と注文した結果がこちら

文字数 1,738文字

 翌日、午前。

 北条は上杉と明智を、山本の轢き逃げ現場に連れてきた。

  昨夜レナに話した私見と、レナの見解を伝えた。
 予想通り、レナの見解に二人は耳を傾けた。
 北条の私見は無視された。
 その後、三人は自然に散っていった。
 


  相手は殺しのプロ。
 山本を轢いた後の『死亡確認行為』でそれは明白。

 まだある。
 タイミングの絶妙ぶりだ。
 山本は上空に吹き飛ばされた。
 正面から衝突した場合、人間は平面に吹っ飛ぶ。
 殺すに適切な速度、角度。

 途中で寄った交通課で、情報を仕入れた。
 車輌は轢き逃げ後、防犯カメラ・Nシステムにヒットしていなかった。
 北条が記憶した車輌番号から所有者を割り出したが、案の定、盗難車だった。
 


  木島のアリバイはバッチリだった。
 何しろ、県警本部の公安課でデスクに向かっていたのだ。
 だがこれで『木島無罪』とはいかない。
 殺人依頼は御伽噺ではない。
 「外国人への『外注』は、三、四十万円から」が相場だ。
 どのみち、相手が殺人を屁とも思ってない以上、『警察組織の威厳』という防弾チョッキは、パンツ以下の防御力。

 殺しを生業とする者と一戦交える。
 ならば、それなりの準備は必須。



 「課長、チャカ……拳銃いるんで、許可書ください」
 
 拳銃携帯は『警察官等拳銃使用及び取扱い規範』に、神経質かつ事細かな規定がある。
 
 ショボショボお目々課長・小寺のとびっきりグッドな所は、その辺がファジーなこと。

 「いいよ。ちょっと待ってて」

 目をショボショボさせながら、パソコンのキーをトントンと叩き始める。
 山本の帳場が所轄に立っているので、一課の刑事はほとんど残っていない。
 報告書作成の残党がいるのみ。
 その連中が、うさん臭い目で北条を見る。
 北条が一課中を睨み返すと、残党達が慌てて顔を伏せる。

 「はい、できたよ」

 小寺が、拳銃携帯許可書を北条に差し出す。

 「あざーっす!」

 受け取った北条が駆け出すと、小寺がボソッと洩らした。

 「誰もが、更正できるわけじゃないんだよねえ」
  
 (俺のことか? 好きに言ってろ)

 北条は銃器対策室に向かった。
 この時、小寺の発言の真意を北条が分かっていたら、悲劇は防げたかもしれない。


 「チャカ一丁」

 カウンターに肘をついて、北条がオーダー。
 『大将、トロ』のノリ。
 対応した銃器対策室の若造の顔に浮かぶ、驚愕。

 拳銃は警官個々に支給・管理するのが規則。
 北条にとって規則は、破るためにある。

 「おい、チャカだよ、チャカ。ほら、課長の許可証。回転式拳銃(レンコン)じゃ、役不足だ。ベレッタ以外のチャカ寄越せ」

 ベレッタを北条は使わない。
 いや、使えない。
 未成年二人を射殺した銃……。
 若造が慌てて、北条を部屋の隅に連れていく。

 「んだあ? ほら、課長の許可書あるだろ」

 「何を今さら! 段取りは聞いてるでしょ? 今は特命だか何だかで、かえって身軽になったって……。それに約束は来週でしょ?」
 
 どうも会話が噛み合わない。

 (何で特命をこの若造が知ってる?)

 キナ臭いこと、この上なし。

 少し、『お話』が必要らしい。

 北条に睨みつけられる若造。
 まだ二十代半ばで、銃器対策室配属。
 肝っ玉が据わっていれば、こんな所に配置はされない。
 オドオドした態度が実に似合う若造。
 そんな若造が本気モードの北条と対峙する。
 若造がズボンを濡らしても、軽蔑するのは気の毒だ。



 『無事』、北条は銃器対策室から拳銃・シグP226とホルスターをゲットした。
 その足で向かうべき場所があった。
 銃器対策室の若造から得たもの。
 それは、拳銃だけではなかった。
 聞きたくない『真相』を若造から聞かされた。

 北条の懐から、宇宙戦艦ヤマトの勇壮な音楽が流れる。
 北条お気に入りの着信音。

 スカジャンの内ポケットから、携帯を取り出して耳にあてる。

 すぐに北条は駆け出した。
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