第58話 盗聴器発見したから、それ越しに犯人に宣戦布告したった

文字数 1,007文字

 クッション内に手を突っ込んで、無遠慮にまさぐる北条。

「ドーナツみてえだから、探しにくくてしょうがねえ……。お、あった」

 そのドーナツの世話になっている菅野が北条を睨む。
 もちろん北条は、無愛想眼鏡がガンを飛ばしても、どこ吹く風だ。

「これだ、これ」

 北条が指で挟んで、高々と掲げてみせる。
 それは、黒い立方体だった。
 大きさは、小指の第一関節ほど。

「この豆粒みてえな真っ黒サイコロの中に、グチャグチャと精密機器ってやつが詰まってんだ。深っち、解体して見せてやれ」

 北条のふざけた呼び方を無視して、深田が任務を優先する。
 北条から受け取ろうとすると――北条が、スッと腕を引っ込める。

「解体前にやっとかねえとな。今も、この盗聴器は『生きて』んだ」

 悪い予感にとらわれるレナ。

(あんた、やめや!)

 だが、時すでに遅し。
 北条が盗聴器を、口元に持っていく。

「おい! クソ野郎ども! さつきちゃんにかすり傷一つつける度にテメエ達のエンコ一本飛ばすからな! 『万が一』のことしてみろ! 世界中どこに逃げても見つけて殺す! 必ず殺す! 必ずだ!」

 何てことを、北条……と頭を抱える余裕がレナにはなかった。
 発言の後半部分の、北条の声音。
 聞いた者を皆、地獄に叩き落すほどの迫力と殺気だった。
 レナだけではない。
 リビングにいる全員が、フリーズしている。

「深ちゃん、ゴメンね。じゃ、解体してよ」

 北条の発言に、いつもの軽さが戻る。
 それで、全員のフリーズが解けた。
 北条はソファにドカッと腰を落とし、背もたれに体を預け、両腕を背もたれに乗せ、長くもない足を組んでいる。
 ふてぶてしさと無遠慮を足して、二をかけた傲慢ぶり。

「確かに盗聴器だ。間違いない」

 解体を手早く終えた深田が呟く。

「盗聴器があったから、何やって? 大体、何で我が家に盗聴器があるんや? お前等が仕掛けたんじゃ……」

「これで、レナ……川村巡査長がクロじゃねえことが、ハッキリした。上杉がバカ丁寧に、川村巡査長をあんた等に紹介したからな。それを盗聴された。で、俺等が仕掛ける? あんた、ずっと円座に座ってただろ。あんたが便所してる間は、美和さんの目があったんだよ」

 そう、美和嬢の目があったのよー。
 片目だけでも、溶けてるよ、俺。
 ああ、両目で見詰められてえ~。
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