第51話 さつきちゃんはゼッテー救出するから、知ってること全部吐け!の巻
文字数 1,513文字
北条達三人と管野夫婦がテーブルを挟んで座り、聴取が始まる。
ここでも管野は脇に資料を置き、それを見ながらパソコンで作業をしている。
仕事中毒かもしれない。
上杉が誘拐時の状況を伝え、いくつか質問と確認を行う。
「さつきちゃんに、最近変わった様子はありませんでしたか? 口数が減った、食事量が減った、頻繁にトイレに行くようになったなど、日常のどんな些細なことでも構いません」
「いえ、特に……」
美和が俯いて、小声で答える。
(ああ、美和嬢、健気だねえ。心配いりませんよ、あっしがチャッチャと、さつきちゃんは救出しますから)
顔だけ神妙にしながら、下世話な考えに浸る北条。
「さつきちゃんは、今までに家出したことはありますか?」
「いえ……」
「さつきちゃんの服や下着が、何点か無くなっていませんか?」
「え? あ、あの……どういう意味でしょうか?」
美和が困惑して、小首をかしげる。
その仕草が、北条にはたまらない。
そしてあの目には、本当に殺られる。
あの目、瞳……それが放つ色彩。
北条の貧弱なボキャブラリーでは、とても表現できない。
「ちょっと待てや。さつきが、家出したと考えとるんか? あんた自身も説明したやろ、誘拐の経緯。それを何だ……」
美和がすがる目で、管野を見やる。
それで不承不承、管野が口を閉じる。
(羨ましいぞ、無愛想眼鏡! ああ、美和嬢、そのヤロー殺しの目で俺を見てくれ! 俺を頼りにしてくれ!)
美和への北条の思いが、頭の『本音日記』に記録されていく。
「管野さんのおっしゃることは、ごもっともです。我々が注目しているのは、砂場からワゴンに乗せられるまでの間、さつきちゃんが犯人に一切の抵抗をみせていない、という目撃情報です」
「あの、上杉さんがおっしゃりたいのは……さつきが、自分の意志で犯人に従った……ということですか?」
非難の色はなく、弱々しい声音で美和が訊ねる。
(ああ、ソプラノだけど高すぎない、α波の声。俺、溶けちゃうぜ?)
北条の本音日記、今日で一冊埋まる可能性、大。
レナは、北条よりはマトモな人間だった。
冷静に菅野夫妻を観察している。
(美和の言動は、我が子が誘拐された母親のそれやな。問題は、菅野や。さっきから、パソコンで何をグチャグチャしとんねん!)
「その可能性もあります。今現在、圧倒的に情報が不足しています」
(上杉、お前の声はいらねえよ。ん? 無愛想眼鏡、何か苦しそうだな。拾い食いした? あれはダメだよ。俺もそれで、何度便所にダッシュしたか)
いつもならくだらない北条の妄想だが、実は今回に限り、一部は当たっていた。
「さらに、犯人からの連絡もありません。今現在、我々ができることは、些細なことでもいい、一つでも多くの情報を得ることです。それ分析した上で、あらゆる状況に対応するよう……」
「ちょ、ちょっと……」
菅野がそれだけ言い残し、なぜかA4サイズの鞄を手に、そそくさとリビングを出ていく。
美和が俯いて、軽く溜め息を吐く。
(ありゃあ、間違いなく便所だ。大体、上杉の話が長過ぎんだよ。『必ず救出して、さらった奴ぶちのめします。知ってることを、今から根掘り葉掘り聞き出すんで、よろしく!』でいいんだよ)
北条のそれは、イチャモンと決めつけられない。
現役のSIT時代、『戦闘要員』だったにもかかわらず、なぜか前線に配置された。
対処した三件の誘拐は、マル害の性格も態度も異なったが、北条は先の言葉を堂々と述べ、力づくで実行し、解決してみせた。
ここでも管野は脇に資料を置き、それを見ながらパソコンで作業をしている。
仕事中毒かもしれない。
上杉が誘拐時の状況を伝え、いくつか質問と確認を行う。
「さつきちゃんに、最近変わった様子はありませんでしたか? 口数が減った、食事量が減った、頻繁にトイレに行くようになったなど、日常のどんな些細なことでも構いません」
「いえ、特に……」
美和が俯いて、小声で答える。
(ああ、美和嬢、健気だねえ。心配いりませんよ、あっしがチャッチャと、さつきちゃんは救出しますから)
顔だけ神妙にしながら、下世話な考えに浸る北条。
「さつきちゃんは、今までに家出したことはありますか?」
「いえ……」
「さつきちゃんの服や下着が、何点か無くなっていませんか?」
「え? あ、あの……どういう意味でしょうか?」
美和が困惑して、小首をかしげる。
その仕草が、北条にはたまらない。
そしてあの目には、本当に殺られる。
あの目、瞳……それが放つ色彩。
北条の貧弱なボキャブラリーでは、とても表現できない。
「ちょっと待てや。さつきが、家出したと考えとるんか? あんた自身も説明したやろ、誘拐の経緯。それを何だ……」
美和がすがる目で、管野を見やる。
それで不承不承、管野が口を閉じる。
(羨ましいぞ、無愛想眼鏡! ああ、美和嬢、そのヤロー殺しの目で俺を見てくれ! 俺を頼りにしてくれ!)
美和への北条の思いが、頭の『本音日記』に記録されていく。
「管野さんのおっしゃることは、ごもっともです。我々が注目しているのは、砂場からワゴンに乗せられるまでの間、さつきちゃんが犯人に一切の抵抗をみせていない、という目撃情報です」
「あの、上杉さんがおっしゃりたいのは……さつきが、自分の意志で犯人に従った……ということですか?」
非難の色はなく、弱々しい声音で美和が訊ねる。
(ああ、ソプラノだけど高すぎない、α波の声。俺、溶けちゃうぜ?)
北条の本音日記、今日で一冊埋まる可能性、大。
レナは、北条よりはマトモな人間だった。
冷静に菅野夫妻を観察している。
(美和の言動は、我が子が誘拐された母親のそれやな。問題は、菅野や。さっきから、パソコンで何をグチャグチャしとんねん!)
「その可能性もあります。今現在、圧倒的に情報が不足しています」
(上杉、お前の声はいらねえよ。ん? 無愛想眼鏡、何か苦しそうだな。拾い食いした? あれはダメだよ。俺もそれで、何度便所にダッシュしたか)
いつもならくだらない北条の妄想だが、実は今回に限り、一部は当たっていた。
「さらに、犯人からの連絡もありません。今現在、我々ができることは、些細なことでもいい、一つでも多くの情報を得ることです。それ分析した上で、あらゆる状況に対応するよう……」
「ちょ、ちょっと……」
菅野がそれだけ言い残し、なぜかA4サイズの鞄を手に、そそくさとリビングを出ていく。
美和が俯いて、軽く溜め息を吐く。
(ありゃあ、間違いなく便所だ。大体、上杉の話が長過ぎんだよ。『必ず救出して、さらった奴ぶちのめします。知ってることを、今から根掘り葉掘り聞き出すんで、よろしく!』でいいんだよ)
北条のそれは、イチャモンと決めつけられない。
現役のSIT時代、『戦闘要員』だったにもかかわらず、なぜか前線に配置された。
対処した三件の誘拐は、マル害の性格も態度も異なったが、北条は先の言葉を堂々と述べ、力づくで実行し、解決してみせた。