第55話 レナが誘拐犯の一味とか、片腹痛すぎてもう。

文字数 1,322文字

 武田が拳を固めた時、意外な人物が割り込んできた。

「川村巡査長の対応は、満点ですねえ」

 県警から持ってきたマイ茶碗で茶を啜りながら、目をしょぼしょぼさせて、小寺が呑気な声を出す。

 二人組は一瞬顔を見合わせると、苦笑する。
 田舎の課長が、何抜かしてやがる。

「まあ確かに、声はマル害に似ていましたが……」

「誘拐で、最初の犯人との会話は大切です。『何も分かりません』はダメ。深く追求し過ぎてもダメ。その状況で川村巡査長は、大切なことを確認しました。『あなた』と『あなた方』を会話に挿入して、相手の反応を見る。それで、単独犯か複数犯か確認できる」

 二人組が、ヤレヤレという顔をする。

「課長。複数犯に決まってるんですよ。誘拐時に、ワゴンが使われた。運転とマル対の確保の両立は、非常に厳しい」

「その通りですな」

 あっさりと小寺が認めたので、二人組が虚をつかれる。

「さらにですねえ。人質の監視と警察との交渉を、一人でやってのけるのはとても大変です。ここでも、複数犯の可能性は高いですねえ」

 急に静かになる、指揮本部の雛壇。
 ズズズッ。
 小寺が茶を啜る音だけが響く。

「ですが、単独でやってやれないこともない。そこ、確認しとかないと。誘拐も他の刑事事件と同じです。固いブツの積み重ねが、最後に物を言います」

 苛立つ二人組。
 田舎県警の老いぼれが、何を偉そうに。

「で、先程の電話で、川村巡査長は犯人がどちらなのか、確認できたのですか?」

「できませんでした」

 今川の問いに、あっさり答える小寺。
 ペースを乱されて苛立つ二人組に満足な武田。

(小寺、やってくれるじゃねえか。お前を見込んで捜一課長にした抜擢した俺は、やっぱり優秀だな)

 小早川が、小寺に噛みつく。

「課長。あなたは一体……」

「犯人は、川村巡査長の意図を見抜いていたんです」

「では、川村巡査長は全く結果を……」

「誘拐と立てこもりの共通点は何でしょうか? 人質を取られていることです。この時点で、警察は風下に立たされる。逆転するために必要なもの。それは情報です」

「だから! 川村巡査長は何一つ……」

「川村巡査長は、見事な罠を張った。犯人はさらにその上をいった。これで相手が、極めて知能指数が高く、奇策にも強いことが分かりました。大きな前進です」

 小早川が話し終える前に、小寺がノンビリとした声で切り返していく。
 小早川の頭に血がのぼる。
 本性をさらけ出して怒鳴る今川。

「知能指数高い奴が六歳のガキさらって、たかが身代金一千万だぞ!? バカの典型みたいな野郎だろうが!」

「身代金だけが目当てという、裏づけはありますか?」

 二人組が持っていたのは、筋肉と高すぎるプライドだけではなかった。
 何よりも狡賢さに長けている二人組は、曲者の小寺ではなく、武田に噛みつく。

「犯人は、川村巡査長のフルネームと階級を知っていた。これが何を意味するか、お分かりになりますか、部長?」

 ふん、やっぱりそう来るんじゃねえか。
 上等だ。
 言ってやる。

「川村が共犯か、警察内部に裏切り者がいる」
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