第40話 神隠しって、神様はそんな意地悪しないっしょ?

文字数 674文字

 保育士にとって、保育園は戦場。
 難攻不落の敵の名は、『園児』。

『実り園』も例外ではない。

 だが、一時停戦の時間帯がある。

 それは、園児のお昼寝時間。

 束の間の平和。
 保育士達も見回り以外は、事務所で休むか書類仕事に勤しむ。

 管野さつきは、目だけを動かし偵察する。
 よし、敵兵の姿なし。

 さつきがいる年長組の部屋と園庭を隔てるのは、ガラス戸のみ。

 さつきは、戦友を起こしたり、見回りの偵察兵にバレないよう、静かにガラス戸を抜ける。

 園庭に出ると、一目散にお目当ての砂場へダッシュ。
 砂場は園長室からは見えるが、事務所からは死角となる。
 さらにこの時間、園長は事務所に行って世間話をしている。
 機嫌が悪い日は、気に入らない小娘保育士をいびっている。

 つまり敵兵の監視は薄い。

 季節は梅雨真っ只中。

 空は、気が滅入るほどブ厚い灰色の雲で覆われている。
 雨が降っていないのが、唯一の救いだ。
 だが、降ったところで、さつきの戦意は削がれない。
 合羽を着れば、即解決。

 砂場の独り占めは、それほどさつきにとって魅力的だった。

 園は高さ一メートルほどの柵で囲われている。
 周囲は閑静な住宅街で人影はない。

 園から百メートルほど離れた路上に、黒のワゴンが停車していた。
 そのワゴンがゆっくり動き出す。



 一時間後、実り園は戦場と化した。
 いつもと違うのは、保育士の敵が園児ではなかたっこと。

 敵は――神隠し。



 園庭も含めて、園内のどこにも、さつきの姿はなかった。
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