第69話 婦警に生理ネタはたぶーである
文字数 1,347文字
「身代金はダミー。そんなら揉めねえよう、はした金にすりゃあいい。狙いは別にある。今んとこ、それは分からねえ。それとな」
『ふわーあぁ』と、北条が大あくびをする。
「金目当てなら、さつきちゃんは誘拐しねえ。菅野を誘拐して、電力会社を脅迫する。同じことが、思想犯や政治犯にも言えんだろ。あ、それと、菅野が勤めてる会社に恨み持ってる奴もな」
北条が、あくび涙をごしごしこする。
「んで、レナ。まず、菅野の口座の金。てか、四千万って、あこぎな商売しやがって。美和嬢まで妻に……ま、そりゃいいや。菅野の口座の金な、あれ、マル被が喋り過ぎたんだ」
「根拠は何だ?」
全員の疑問を、上杉が代弁する。
「マル被は、あれ言う必要ねえんだよ。警察いるの知ってんだ。身代金は、放っておいても準備されんだよ。『力』見せつけんのは、逆探できねえ要求連絡で充分。前線を混乱させるのは、レナの階級とフルネーム言うので充分」
「なるほど。策士、策に溺れる、か」
カバのように口を開けてあくびをしている北条を見ながら、上杉は納得した。
そして待つ――が、痺れを切らした。
「おい、まだメールの件が残ってるぞ、北条!」
ウトウトしかけていた北条が、仕方なさそうに、説明を再開する。
「幼稚園児か、おのれは!」と怒鳴りたいレナだが、実践に裏打ちされた本場SIT仕込みの北条に今は口出しできない。
無念の極み、痛恨の極み。
「メールの送り先を言わなかった理由ねえ。んなの、簡単だ。想定外の質問だったからだ」
「それ、どういう意味や?」
レナが眉間に皺を寄せる。
「俺達が、まだ見えてねえこの誘拐の全貌の中で、メールを送る媒体は、マル被にとって決まりきってんだ」
全員が黙り込む。
北条の筋読みは、一考に値する。
『当然のこと』について唐突に問いかけられると、人間は即答できないことがある。
「それはパソコンか、携帯なのか。判断はついているのか?」
「上杉よお。携帯だって分かってんのに、一々聞くな」
「まあな。相手が素人集団じゃない以上、現場を動かすだろうな」
「なぜ携帯なんですか? 現場を動かすとは?」
北条と上杉のやり取りに、堀が割って入る。
隣の深田も怪訝な表情をしている。
(ムリないわ。技官さんには、ちょっと分からんやろうな)
技官への説明不足を感じたレナが、解説する。
「映画やドラマで見たことあらへん? 身代金を運ぶよう指示された人間が、犯人からの連絡で、あっちゃこっちゃへ移動させられるシーン。それで警察の追跡が振り切られる、みたいなやつ。あれ、現実にもあんねん。そりゃそうや。例えば、福井市役所西口前で待て、と指示があったら、上下前後左右、ガチガチに警察包囲網や。そんな所で、身代金なんて奪えへん。そこで、運び人を動かす。それには、運び人に指示せなアカン。間違いなく、携帯にメール送ってくるわ」
レナの説明に、技官達は合点がいったようだ。
「何か、うち、スッキリせえへんねん。喉に魚の小骨ひっかかってるみたいな、うっとうしい、正体不明のイライラや」
「お月様だろ」
レナの肘が、きれいな角度で北条のこめかみに突き刺さる。
『ふわーあぁ』と、北条が大あくびをする。
「金目当てなら、さつきちゃんは誘拐しねえ。菅野を誘拐して、電力会社を脅迫する。同じことが、思想犯や政治犯にも言えんだろ。あ、それと、菅野が勤めてる会社に恨み持ってる奴もな」
北条が、あくび涙をごしごしこする。
「んで、レナ。まず、菅野の口座の金。てか、四千万って、あこぎな商売しやがって。美和嬢まで妻に……ま、そりゃいいや。菅野の口座の金な、あれ、マル被が喋り過ぎたんだ」
「根拠は何だ?」
全員の疑問を、上杉が代弁する。
「マル被は、あれ言う必要ねえんだよ。警察いるの知ってんだ。身代金は、放っておいても準備されんだよ。『力』見せつけんのは、逆探できねえ要求連絡で充分。前線を混乱させるのは、レナの階級とフルネーム言うので充分」
「なるほど。策士、策に溺れる、か」
カバのように口を開けてあくびをしている北条を見ながら、上杉は納得した。
そして待つ――が、痺れを切らした。
「おい、まだメールの件が残ってるぞ、北条!」
ウトウトしかけていた北条が、仕方なさそうに、説明を再開する。
「幼稚園児か、おのれは!」と怒鳴りたいレナだが、実践に裏打ちされた本場SIT仕込みの北条に今は口出しできない。
無念の極み、痛恨の極み。
「メールの送り先を言わなかった理由ねえ。んなの、簡単だ。想定外の質問だったからだ」
「それ、どういう意味や?」
レナが眉間に皺を寄せる。
「俺達が、まだ見えてねえこの誘拐の全貌の中で、メールを送る媒体は、マル被にとって決まりきってんだ」
全員が黙り込む。
北条の筋読みは、一考に値する。
『当然のこと』について唐突に問いかけられると、人間は即答できないことがある。
「それはパソコンか、携帯なのか。判断はついているのか?」
「上杉よお。携帯だって分かってんのに、一々聞くな」
「まあな。相手が素人集団じゃない以上、現場を動かすだろうな」
「なぜ携帯なんですか? 現場を動かすとは?」
北条と上杉のやり取りに、堀が割って入る。
隣の深田も怪訝な表情をしている。
(ムリないわ。技官さんには、ちょっと分からんやろうな)
技官への説明不足を感じたレナが、解説する。
「映画やドラマで見たことあらへん? 身代金を運ぶよう指示された人間が、犯人からの連絡で、あっちゃこっちゃへ移動させられるシーン。それで警察の追跡が振り切られる、みたいなやつ。あれ、現実にもあんねん。そりゃそうや。例えば、福井市役所西口前で待て、と指示があったら、上下前後左右、ガチガチに警察包囲網や。そんな所で、身代金なんて奪えへん。そこで、運び人を動かす。それには、運び人に指示せなアカン。間違いなく、携帯にメール送ってくるわ」
レナの説明に、技官達は合点がいったようだ。
「何か、うち、スッキリせえへんねん。喉に魚の小骨ひっかかってるみたいな、うっとうしい、正体不明のイライラや」
「お月様だろ」
レナの肘が、きれいな角度で北条のこめかみに突き刺さる。