第67話 人質の美人母親の湯上り姿にのぼせそうなんだが

文字数 1,298文字

 誘拐が発生しても、夜は来る。
 リビングには捜査員しかいない。
 管野は相変わらずトイレ。
 美和は入浴中。
 北条がバスルームに行かないよう、上杉とレナが目を光らせている。

 管野がリビングに戻ってきた。
 彼は入浴後のはずだが、着衣から寝る気は微塵も感じられない。
 パソコン相手に、敗者復活戦に勤しむのだろう。

「犯人から、何か連絡はないんか?」

 訊ねる管野の表情に、不安の色が浮かんでいる。

 いい兆候だ。
 捜査員に負の感情を見せ始めた。
 Kは間違いなく、前進している。
 
 管野家のパソコン、携帯へのメールが集約される作業は終わっている。
 メールが入れば、着信音が知らせる。
 現在まで、着信はない。 
 
 それでも管野の手前、堀がパソコンを適当にいじった上で『連絡はありません』と伝える。

「そうか。連絡あったら、いつでも知らせてくれや」

「寝る時は、横向いて寝るんすか? それか仰向けでもつらくない秘密兵器とかあったりするんすか?」

 と言う北条を憎々しげに睨みながら、管野は出て行った。

「管野さん、あんたには毒吐かんな」

「オーラだな、オーラ」

 レナに返事しながら、北条はタバコにジッポで火を点けた。
 喫煙の許可は管野夫妻に得てある。
 リビングには、天井裏に巨大かつ強力、しかも消音機能付きの換気扇があるので、お許しが出た。

 北条と一対一で接したこと。
 足音が大きくなる、『明日』という名のタイムリミット。
 それが菅野に、捜査員への依存心を芽生えさせた。
 美和も、レナに素の一部を見せた。
 マル害との人間関係は、これ以上はもう望めない。
 
 『中』は、何とかした。
 『外』は武田に任せるしかない。
 上杉が結論を出す。
 
 入浴を終えた美和が入ってきた。
 北条の目がハートマークになるのを、横目で見た上杉がゲンナリする。
 レナの額に青筋が浮く。
 
 風呂上りの美和は、空色の薄手の長袖シャツに、黒いパンツ。
 髪には櫛が入れられている。
 梅雨でムシムシした熱帯夜が、一瞬で快適なナイトに早変わり。
 寝巻き姿を見せないのはマナーだが、それ以上に、北条を警戒した可能性は充分にある。

「皆様も、お風呂をどうぞ。お湯は入れ直しましたから」

 熱帯夜に風鈴の音が鳴ったような、耳障りのいい声。
 生真面目な技官、ストイックな上杉でなければ、男連中は一発KOされるだろう。
 北条は美和が現れた瞬間に一発KOされているが。
 ただ技官にしても、さらに上杉までも、美和の瞳に吸い込まれそうになる。
 我を見失いそうになる。
 美和の瞳は男を狂わせる危険で甘い代物。


「ありがとうございます。順番に入浴させていただきます。ここには、常に捜査員が詰めていますので、美和さんはお休みください」

「いえ、そんな。皆様がお休みになられるまで……」

「何かあれば、すぐにご報告にあがります。もちろん、伺うのは川村巡査長ですので、ご心配なく」

 それから大人同士の社交辞令を上杉と美和が交わして、美和は就寝することになった
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