第27話 ド派手に戦争おっ始めてもいいっすかね?

文字数 1,519文字

 「これは確実な情報だよ。ここからは、北条君達から受けた報告をもとに、私の推測交じりになる。だから適当に聞いといてね。あ、北条君。その……悪いんだけど、お茶、注いでもらえる?」

 北条は愚痴一つ言わず、宇宙人の液体補充を手助けする。

「ありがとう。スイマセンね、北条君にお茶汲みなんかさせて。……あー、おいしい。北条君は平成の千利休だね」

 宇宙人らしい感想のあと、人類への説明が再開された。
 
 後任が木島と違うのは、山本との関係。

 木島は義理人情で。
 後任は恐怖で。
 『他の暴走組に、お前が警察に協力したことをバラす』とでも脅したのだろう。 さらに山本に『面』を晒すのを避けた。
 この理由もハムらしい。
 後任は山本の『全て』を任された。
 運用から最終処理――抹殺まで。
 後任は指示をテープに吹き込んで、山本を運用した。
 もちろん、山本に『保険』に使われないよう、テープにコピーガードが施してあった。
 
 テープの声の主は簡単に判断できる。

 明智しかいない。

 喫茶店で、山本との交渉を上杉に任せたこと。
 明智の声を聞いた途端、山本が逃亡したこと。
 山本を呼び出したのは、これまでの指示テープの回収。
 そして口封じのため、殺すこと。
 
 宇宙人の説明が終わった。
 説明前と変わらない、小寺の呑気顔。
 小寺が県警捜査一課長の椅子に座っている理由が、理解できた。
 なぜ小寺がそこまで知り、限りなく真相に近いだろう推測を持っているのか。
 それは永遠に理解不能だろう。
 イッツ・小寺ワールド。

 「テープについては、北条君も真相を色々知ってるよね? 教えてもらえる?」
 
 友好的な宇宙人の申し出に、人類は素直に従った。

 それは木島が殺害された直後、上杉と対峙したところから始まる。
 上杉は木島ではなく、明智を監視していた。
 しかし木島を救えなかった。
 明智の暗殺術の前に、木島を守ることに失敗した……。

 「轢き逃げ直後のどさくさに紛れて、上杉は明智からテープと『鍵』をスったんです。んで、木島が殺られた直後に、とことん上杉から聞き出したんすよ」
 
 テープには、ボイスチェンジャーがかかっていた。
 だが、それでも声紋は取れる。
 上杉は、取調室兼ミーティングルームで明智の声を録音した。
 それとテープの声紋照合を、科捜研に依頼した。
 回答は予想通り。

「同一人物」。

 さらに、外堀・内堀も埋めた。

 「一度は逃げんのあきらめた山本が、なんでまた、死に物狂いで逃げたのか。それも、上杉が明らかにしました。……伸子さんが、協力してくれたお陰っす」

 上杉は木島の自宅を訪ねた。
 妻の伸子に頭を下げ、協力を依頼した。
 福井弁が強い伸子に確認した。
 夫もそうだったのか、と。
 返事は、「ノー」。
 木島は嶺南出身だった。
 キツイ福井弁と地声を聞いたとき、山本は相手が木島の後任だと確信した。
 姿を現した理由についても。
 山本は北の諜報員だ。
 ボイスチェンジャーから地声を聞き分けるなど、朝飯前。

 北条の説明が終わった。

 「北条君。後は行動するのみ、だよ。ではどのように行動するのか。それは任せるからね」
 
 小寺の声は至ってフラットだった。
 だがどんなエールよりも、その言葉は北条の勇気をより強固なものにする。
 北条は小寺に返事をしなかった。
 自分は言葉じゃない。
 小寺が言うように『行動』で応えてみせる。
 北条が、紙片にあるホテル名と部屋番号をもう一度見る。
 ここに救うべき仲間がいる。

 さて。
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