第96話 韓国スパイの偉さんが偉そうなのでブッコロしたいんですけど

文字数 1,730文字

「こればかりは、北条の言う通りだ。完全にハムの守備範囲だ。桜田門が外事二課を投入してくる案件だ」

 史上初、上杉の援護射撃。
 だが、パクに呆気なく迎撃される。

「日本中の公安関係者の顔・名前・所属・家族構成等が、キムに流れた。警視庁に至っては、全捜査員にそれは及ぶ。キムはそれら全てを記憶している。よってキム確保は、奴が現れた地域の公安以外が対処するしかない」

「なら組対(組織犯罪対策課)だろ。北の奴等は、日本のスジ者と手え組んで、ヤクの密輸入してやがる。マル暴の出番だ」

 百年に一度あるかないか、北条の的を射た反撃。

「福井県警の組対は手一杯だ。春に暴力団へ大量に流れた銃火器の押収でな。早く説明を始めたいので、結論を言う。お前等三人は、県警首脳部が推薦した。私もお前等の経歴を勘案したが、邪魔にはならないと判断した。以上だ」

「邪魔? てめえ、いい度胸してんな。さっきの続きやるか?」

 北条の啖呵に、パクが変化球を放る。

「上杉が県警で突出しているのは間違いない。警部昇格も決定している」

 上杉、変化球で空振り三振。
 まだ昇格試験の結果は公表されてない。
 本人にも知らされていない。
 警察において、人事関連は最高機密だ。
 
(上杉のドアホ、三十一歳で警部だあ?……カンニングだろ! 俺みたいに)
 
(上杉さん、こんなに早う警部になるんか! やっぱ北条とは違うわ。ま、ウチは短大卒やから、出世はどうでもええけど)

「川村は現役の交通課で地理に詳しい。地の利は不可欠だ。さらに梅雨の誘拐で、偵察局の女と交戦している経験は無視できない。今秋の移動で、刑事にもなるしな」

 今度は男二人が驚愕、レナはご満悦。
 
(やったで! やっと刑事かいな!)

(あれ、おかしくね?)

 喜びで舞うレナを放置して、またも北条の口から正論が飛び出す。

「レナ、お前って刑事講習受けた?」

 百年に一度が二連続。
 北条の指摘はその通り。
 
 刑事になるには、まず署長推薦が必要。
 推薦GET後、警察学校で二ヶ月、所轄で一ヶ月の捜査選科講習を受ける。
 最後に試験と面接の関門をクリアーしなければならない。
 おまけに「犯罪者を知る」ため、留置場の看守係も務めなければならない。

「去年、講習も受けたし看守もやったで! やけど、交通課が人手不足過ぎるから、ほったからしや!」

 田舎の車社会。
 刑事より交通に人手がいるのが実情。
 
(なるほど。それで、かわむ……レナは、巡査ではなく巡査長だったのか。『刑事にさせろ!』とやかましいレナに、上は昇進で宥めてきたわけだ)

 上杉一人が納得する。

「さらに川村は、公安からの受けがいい。容赦なく交通違反の切符を切った結果、その中に反国家思想の持ち主が何人かいた。その連中の住所等の情報を入手し、拇印で指紋まで獲得したからだ」

(そうなんか? やかましい連中を、片っ端から切符切っただけなんやけど)

「北条については省略。面倒くさい。私の自己紹介は随時行う」

 話があまりに多方面に飛び過ぎて、北条のIQではついていけない。
 怒る余裕がない。

「大阪での暴走組大量虐殺から始める。その方が分かりやすい」

 ようやくパクが説明を始める。



 誘拐任務の三日間。
 その間、大阪では暴走組大量虐殺が勃発。
 日本が震撼した。
 殺害された暴走組は、九十七名に及ぶ。
 一日に三十人殺害しても、お釣りがくる。
 その殺害方法は多岐に渡る。
 マシンガンを初めとする各種の銃、毒、ナイフ、車輌による轢き殺し。
 果ては、爆弾、ロケット砲まで使用された。

 さらに、日本の震撼を増幅させる二つの要素が存在する。

 まず、九十七名のうち十七名が偵察局の工作員であること。

 次に、現場の状況・数少ない目撃情報から、この大量殺人が単独で行われた可能性が高いこと。

 疑問はある。
 まず、動機。
 なぜ、現場が大阪だったのか。
 また、四日後にどうしてピタリと止んだのか。
 そして何より、誰の犯行なのか。

 憶測は飛び交っているが、真相は解明されていない。
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