第31話 エレベーター内で刑事部長とやり合った結果報告をするから、よく聞け。

文字数 1,206文字

 北条は地下駐車場に下りようと、エレベーターに乗った。

「生安と公安で暴れたそうだな」

 ギョッとして振り向くと、さらにギョッとした。
 刑事部長の武田が乗っていた。
 アドレナリン出過ぎで、気付かなかった。

「沼津……監察も、今回は大目に見んぞ。お前は八つ裂きにされる」

「チャカが好き勝手に飛び交ってんのを処分できねえ監察に、何が出来るんすか?」

 エレベーター内で、刑事二人の視線が火花を散らす。

「理由があっての暴挙だろうな?」

 低い声で詰問。

「正当防衛っす。俺は課長達に確認してえことがあっただけなんで」

「それは何だ?」

「明智に、口座作んの許可したかっす。あ、生安では、明智の拳銃摘発実績も」

 「ううむ」と武田が唸る。
 武田も一連の詳細な報告を受けている。
 北条の言わんとしていることを理解出来る。
 それを見てとった北条が、持論を展開する。
 北条が幹部相手に持論を展開。
 春の珍事どころの騒ぎではない。

 原則、警察官は信用組合にしか口座を開設できない。
 しかし、様々な不便・不都合が発生するため、民間金融機関にも口座を開設できる。
 ただし、所属長の許可が必要だ。
 生安課長も公安課長も、明智に口座開設の許可は与えていない。
 なのに、山本から三十万円を要求されたとき、明智はすぐに準備できた。
 近所のATMで下ろしたのだろう。
 つまり、明智は無許可の口座を持っていた。
 なぜ?
 
 許可を取れば、口座の存在や詳細を組織に把握される。
 警察の警察で手段を選ばないハムに覗き見されることを、ハム出身の明智は知っていた。
 覗き見されてはマズイ金が入金されていたに違いない。
 そしてそれは、拳銃横流しで得た金以外に有り得ない。
 
 拳銃横流しの本ボシは明智。
 木島は濡れ衣。
 未だ不明は、山本の要求金。
 三十万円は中途半端過ぎる。

「戸籍だな」

 独り言のように、武田がボソッと洩らす。

「日本人になるため、戸籍が必要だった。裏社会で、戸籍は三十万円前後で売買される。状況と金額の合致から見て、まず間違いない」

 ならなぜ、山本は日本人の戸籍が必要だったのか? 

 北条が重要なことに気付く。
 エレベーターのボタンを押していなかった。

「部長、何階っすか?」

「俺は階段しか使わない」

 そう言い捨てて『開』のボタンを押す。
 ドアが開いた途端、武田は本当に出ていった。

(じゃあ何で乗ってんだよ、ったく……あ、俺の待ち伏せか)。



 階段を上がりながら、武田は算盤を弾いていた。
 生安の方は、俺が握り潰す。
 公安の方も浅妻が潰すだろう。
 公園での機捜班長に対する北条の暴行を、沼津が握り潰したように。
 これで北条は、こちらにも相手にも借りができる。
 選択を迫られる。

 さて、奴はどちら側の人間だ?
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