第70話 福井で誘拐追っかけてたら、大阪で戦争が勃発したってよ
文字数 1,826文字
「気になるのは、資料の中で、美和さんが菅野さんに会うまでの過去が調べられてない点くらいか」
上杉が、自分で自分に確認する。
「大阪府警の返答待ちでしょ? 当分、無理かもしれません」
「なぜです? 何がありました?」
そうか。
上杉警部補達は、ニュースもインターネットも見ていないんだ。
そんな暇はなかったもんな。
こっちはパソコンと睨めっこだったから、チラッとネットは覗けたけど。
技官の堀はそんな真相を隠し、都合のいい真実だけを告げる。
「大阪で、連続殺人が発生してるんです。そのマル害が、何と暴走組なんです。加えて、マル被も暴走組らしいんです」
北条のあくびが、ピタリと止まる。
日本全国が今日激震したのは、田舎で起きた誘拐ではない。
大阪暴走組ショックだ。
報道協定がなく、マスコミに好き勝手やらせても、紙面やニュース時間は、全て大阪で埋まるだろう。
大阪府警は、それこそ刑事・公安関係なく、総員出動だ。
マル被ならともかく、マル害の過去を調べる余裕など、微塵もないだろう。
「それはタイミングが悪いな。まあ、美和さんについては、調べても埃は出てきそうにないけどな」
溜め息まじりの上杉に、北条も続く。
「ああ、ありゃあ極上だ。本当に、極上だ」
北条の言葉に技官二人は無表情を装っているが、頬が緩んでいる。
もちろんレナの目は、ちぎれんばかりに吊りあがっている。
しかし当の北条の目が真剣味を帯びていることを、上杉ですら見抜けない。
ましてその目の奥に闘志――殺気すら帯びたそれが秘められていたこを、見抜けるわけがない。
「川村巡査長が犯人からの電話を受けている時、菅野さん、美和さんの手は動いていなかったな」
上杉の唐突な指摘に、『アッ!』とレナは叫びそうになった。
(そうや、犯人はキーボードを叩かな、うちと会話できんのや。さすが上杉さんや。誰かさんとは、月とミトコンドリアや。
美和さん、うちには短時間やったけど、泣いてホンマの姿見せたもんな。
なら、自分が感じている違和感、モヤモヤとした気持ちは、やはり菅野が美和にDVを振るっていることか……)
「これはマル害に内密だが、メールは受信だけでなく、送信も監視している。掲示板への書き込み、ツイッター利用も問題ない。マル害のネットとモバイルには、両技官がフィルターをかけた」
あらー、上杉やるねえ。
俺が寝ても、全然問題ないな。
北条は、銀行への往復で菅野と交わした会話を報告すると、そそくさと寝ようとしたが、あっさり上杉に捕まった。
「全員、朝までガチ寝しようぜ」
北条が大あくびしながら、フザけた提案をする。
「あんたなあ、さつきちゃんが今……」
「今夜は連絡なんかねえよ。あっても、相手にしなくていいんだよ」
「なぜそう思う?」
上杉の口調に北条への非難は一切なく、真剣に聞いている。
「さつきちゃんは実在するか? お前等、写真見ただけだろ」
何を言い出すんだ……。
上杉とレナが落胆する。
そんなに期待していたのかと、技官達がさらに驚く。
「住民票があり、園の証言もあり、誘拐のモク(目撃者)もいる」
上杉が、それでも真面目に返す。
「そうだ、実在する。んでもな。この誘拐には、そういう発想からスタートすることも、大事なんじゃねえか?」
部屋が、表現しづらい奇妙な空気になる。
夜間のマル被からの連絡への対応と今の北条の発言の因果関係が一ミリも理解できない――上杉を除いて。
『今夜はここまで』と、上杉が見切りをつける。
「では、シフト通り動こう。堀さん、深田さん、川村、仮眠を取ってください。おい、これでいいな?」
上杉が、北条に確認を求める。
『あいよ』と返答する北条。
技官達には、これが一番の謎だ。
なぜ、北条巡査部長に上杉警部補は意見を求めるのか。
川村巡査長も、同じニーズを持っているように見える。
春に大暴れした噂は聞いているが、北条巡査部長が何か解決したとは聞いていない。
ただ時折、鋭利な発言をして、前線を前進させているのは事実だが。
とにかく、技官はもちろん、レナも仮眠を取りにいく。
明日、勝負がつくとは限らない。
現在進行形は、何が起きても不思議はない。
眠れるうちに、眠っておくべきだ。
上杉が、自分で自分に確認する。
「大阪府警の返答待ちでしょ? 当分、無理かもしれません」
「なぜです? 何がありました?」
そうか。
上杉警部補達は、ニュースもインターネットも見ていないんだ。
そんな暇はなかったもんな。
こっちはパソコンと睨めっこだったから、チラッとネットは覗けたけど。
技官の堀はそんな真相を隠し、都合のいい真実だけを告げる。
「大阪で、連続殺人が発生してるんです。そのマル害が、何と暴走組なんです。加えて、マル被も暴走組らしいんです」
北条のあくびが、ピタリと止まる。
日本全国が今日激震したのは、田舎で起きた誘拐ではない。
大阪暴走組ショックだ。
報道協定がなく、マスコミに好き勝手やらせても、紙面やニュース時間は、全て大阪で埋まるだろう。
大阪府警は、それこそ刑事・公安関係なく、総員出動だ。
マル被ならともかく、マル害の過去を調べる余裕など、微塵もないだろう。
「それはタイミングが悪いな。まあ、美和さんについては、調べても埃は出てきそうにないけどな」
溜め息まじりの上杉に、北条も続く。
「ああ、ありゃあ極上だ。本当に、極上だ」
北条の言葉に技官二人は無表情を装っているが、頬が緩んでいる。
もちろんレナの目は、ちぎれんばかりに吊りあがっている。
しかし当の北条の目が真剣味を帯びていることを、上杉ですら見抜けない。
ましてその目の奥に闘志――殺気すら帯びたそれが秘められていたこを、見抜けるわけがない。
「川村巡査長が犯人からの電話を受けている時、菅野さん、美和さんの手は動いていなかったな」
上杉の唐突な指摘に、『アッ!』とレナは叫びそうになった。
(そうや、犯人はキーボードを叩かな、うちと会話できんのや。さすが上杉さんや。誰かさんとは、月とミトコンドリアや。
美和さん、うちには短時間やったけど、泣いてホンマの姿見せたもんな。
なら、自分が感じている違和感、モヤモヤとした気持ちは、やはり菅野が美和にDVを振るっていることか……)
「これはマル害に内密だが、メールは受信だけでなく、送信も監視している。掲示板への書き込み、ツイッター利用も問題ない。マル害のネットとモバイルには、両技官がフィルターをかけた」
あらー、上杉やるねえ。
俺が寝ても、全然問題ないな。
北条は、銀行への往復で菅野と交わした会話を報告すると、そそくさと寝ようとしたが、あっさり上杉に捕まった。
「全員、朝までガチ寝しようぜ」
北条が大あくびしながら、フザけた提案をする。
「あんたなあ、さつきちゃんが今……」
「今夜は連絡なんかねえよ。あっても、相手にしなくていいんだよ」
「なぜそう思う?」
上杉の口調に北条への非難は一切なく、真剣に聞いている。
「さつきちゃんは実在するか? お前等、写真見ただけだろ」
何を言い出すんだ……。
上杉とレナが落胆する。
そんなに期待していたのかと、技官達がさらに驚く。
「住民票があり、園の証言もあり、誘拐のモク(目撃者)もいる」
上杉が、それでも真面目に返す。
「そうだ、実在する。んでもな。この誘拐には、そういう発想からスタートすることも、大事なんじゃねえか?」
部屋が、表現しづらい奇妙な空気になる。
夜間のマル被からの連絡への対応と今の北条の発言の因果関係が一ミリも理解できない――上杉を除いて。
『今夜はここまで』と、上杉が見切りをつける。
「では、シフト通り動こう。堀さん、深田さん、川村、仮眠を取ってください。おい、これでいいな?」
上杉が、北条に確認を求める。
『あいよ』と返答する北条。
技官達には、これが一番の謎だ。
なぜ、北条巡査部長に上杉警部補は意見を求めるのか。
川村巡査長も、同じニーズを持っているように見える。
春に大暴れした噂は聞いているが、北条巡査部長が何か解決したとは聞いていない。
ただ時折、鋭利な発言をして、前線を前進させているのは事実だが。
とにかく、技官はもちろん、レナも仮眠を取りにいく。
明日、勝負がつくとは限らない。
現在進行形は、何が起きても不思議はない。
眠れるうちに、眠っておくべきだ。