第48話 被害者の父親が変態でワロた

文字数 1,457文字

(何だ、この無駄に広いトイレは! しかも壁の色とか置物とか、妙に洒落てるし。こんなセレブな空間で排泄をしろと!? あっ、んなこと言ってる場合じゃねえ! クソッ、んだよ、このベルト! 外れやしねえ! 引きちぎるぞ!)

 十秒後、北条の顔は仏のように穏やかだった。

(さて、お尻キレイキレイするか)

 その時、奇妙なものを発見した。
 デパートや高速道路でよく見かけるもの。

(え~っと、何に使うんだっけ? あ、思い出した!)

 オムツ交換テーブル。
 
(うーん、捜一で見た資料じゃあ、誘拐されたさつき(マル対)に弟・妹はいねえし。女房の妊娠も、書いてなかったけどなー)

 さらに不思議な空間を発見した。
 北条が二百年かかっても理解できない難解な化学・物理・工学などの書籍が、小ぶりな棚に収まっている。
 金持ちは、こんなん見ながら便所すんのか!

「お待っとさん」

 スッキリ顔で出て来る北条。
 あまりの早さに、驚く上杉とレナ。

「あんた、腹痛かったんちがう? ちゃんとお尻拭いたん?」

「おう! 早飯・早グ……」

「もういい! 行くぞ!」



 やっとリビングに着いた。
 リビングも広い。

 待っていたのは、四十代後半男の仏頂面だった。

 管野義雄。

 ノートパソコンのキーを、一心不乱に叩いている。
 西日本電力から、原子力発電サービス会社へ出向中。
 肩書きは、技術企画部長。
 銀縁のメタルフレームの眼鏡。
 細く長く尖った目。
 我が子が誘拐されても、オールバックの髪に乱れなし。
 監察官室長の沼津、警備部長の浅妻部長を想起させる。

 資料によれば、こう見えて、『飲む・打つ・買う』が好きらしい。
 それでいて豪快さは微塵もなく、クーラー入らずの冷たいオーラを放っている。

(こんな奴に下手に出る? まっぴらゴメン。上杉、任した)

 早々と責任放棄した北条を尻目に、上杉が話しかける。

「さつきちゃんのお父さん、管野義雄さんですね? 福井県警捜査一課から参りました、上杉と申します」

 上杉が自分と北条、レナを詳細に紹介していく。

 その間中、管野は生返事で、パソコンに向かっている。

 言い終えた上杉達に、管野が顎をしゃくる。ソファに座れ、という意味らしい。

 洗練された家具が、バランスよく配置されている。

(家の概観も中身も、コイツのセンスじゃねえ。女房だな)

 そう『アタリ』をつけながら、大人三人が悠々座れるソファに、北条達は腰を下ろした。
 この北条の人外な直感が、後の『決戦』で重大な要素となるが、出すモノ出してスッキリし、鼻の下伸ばしながらレナを見ている北条が、知る由もない。

 上杉が簡単な事実確認を行う。
 情報が少なすぎるため、確認事項もさほど多くない。
 上杉の問いに管野は、無愛想な返事しか寄越さず、相変わらずパソコンと睨めっこしたり、キーを叩いていた。

(こいつを味方にしねえといけねえのか……。頑張れよ、上杉)

 都合のいいことを考えていた北条は、オヤ? と思った。
 
 管野は、北条達三人と正対する恰好でソファに座っている。
 その管野の体が、心なしか浮いて見える。
 よく見ると、尻の下に何かある。

(あれはもしや……ドーナツクッションだ!) 

 文字通り、円形で中央の大部分がないクッション。

(あれに座っているということは……管野は、痔?)

 不謹慎だが、北条は笑いを殺すのに、全力投球した。
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