第45話 人質取り戻しにしゅっぱつしんこー

文字数 1,408文字

 前線本部は、班長に上杉
 北条とレナ以外に、録音担当と情報分析担当が各々一名、配置されることになった。
 五名が、管野家に詰めることになる。

 五人はそれぞれ装備を整え、出発した。
 北条・上杉・レナの三人は菅野家に覆面を走らせる。
 運転は北条。
 助手席にレナ。
 後部座席では、上杉が携帯で本部と連絡を取り合っている。
 通常の警察無線はタブー。
 盗聴される可能性があるからだ。
 指揮本部と前線本部に専用回線が設置されるまで、この状態が続く。

「あんた、周辺地図と菅野家の情報は、頭に入っとんな?」

 なぜか、レナがツンツンとした声で北条に絡む。

「んなもん、入ってる。元SITだっつーの」

 ふんと鼻を鳴らして、レナが前を向く。
 レナの心中を、上杉は理解していた。

 武田の口から出た、北条の未成年射殺。
 体育会系のレナはズバッと北条から経緯を聞きたいところだろう。
 だが、重く複雑な事情を察して、自重している。
 自分が葛藤しているのに、北条が呑気顔で運転しているから、癪に障るのだ。
 さらに誘拐事犯というヘビーな状態かつ運転中にもかかわらず、自分の胸を北条がチラ見しているのも、火に油を注いでいる。

 車は国道から、福井の高級住宅街へ入っていく。

「北条止まれ!」

 上杉の鋭い制止に、北条の足が反射的に急ブレーキを踏む。

「おい! 何急に咆えてやがる?」

「見てみろ。信号が赤色になってるな? あの色が意味するのは『止まれ』だ」

「チッ、赤信号かよ。赤信号って大嫌いなんだよ。行っちまっていいか?」

 現役交通課のレナに、泣く『鬼』も黙る目つきで睨みつけられる。
 慌てて、道交法遵守を誓う北条。

 そうこうしていると、町並みが明らかに変わってきた。
 田舎の高級住宅街は独特だ。
 名門は昔ながらの威厳ある屋敷。
 新興は今時の瀟洒な邸宅。
 それが混ざり合い、奇妙な一画を形成している。
 
 さすがに車内が静かになる。
 もう、ホットゾーンに入っている。
 先行して、管野家に乗り込んだ所轄の刑事とは連絡済み。
 まだ何も、マル被から連絡はないらしい。



 早い段階で県警幹部が誘拐と断定できたのは、目撃情報(モク)があったからだ。
 目撃者は、園と道路一本隔てた家に住む、中年女性。
 園から通報を受けた県警の命により、最寄りの交番から、制服警官が出動。
『歩く週刊誌』・中年女性の代表のような彼女は、自ら警察に、自分は目撃者だと名乗り出た。
 三分の一が旦那の愚痴。
 三分の一が自分の子ども自慢。
 残りも大半が、近所の下世話な話だった。
 だが、制服警官達は、強靭な忍耐と粘りで、次の情報を入手した。
 窓にスモークを張った、怪しいワゴン。
 そこから降り立った、体格のいい、角刈りの男。
 顔はよく見えなかった。
 その男は、園の柵をひょいと飛び越えて、砂場に一直線。
 さつきと数十秒会話した後、柵まで連れ立って歩いた。
 柵を越えるときだけ、さつきを抱きかかえはしたが、手荒な言動は見られなかった。
 ワゴンのドアを横にスライドさせ、さつきは吸い込まれるように入っていった。

 全てが正反対の北条と上杉だが、この報告への感想は一致した。
 完全にプロ。
 手際が見事過ぎる。
 南米では珍しくない、誘拐を生業としている者達の仕業か。
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