第26話 宇宙人に辞表出したら、決戦の舞台が分かるルール発動

文字数 1,414文字

 翌朝。

 茶を啜りながら、朝刊をぼんやり眺めている小寺。
 こんなオッサンだから、俺も一課にいられたんだな。
 今さら、ふと思った。

 小寺のデスクに、北条は辞表を置いた。

 「ちょびっと、お世話になったような」

 「アラララ。今辞めても、退職金、あんまり出ないよ」

  特に慰留なし。

 「久し振りにヤンチャします。すんごく」

  小寺は目をショボショボさせながら、ボソボソ話し出す。

 「機捜の片山班長さんの鎖骨、折ったよね?」

  ギクリ。

 「あれ、なぜか問題にならなかったよ。不思議だねえ」
 
  自分が捜査一課長である不思議さに、自覚はないらしい。

 「北条君を見てると、羨ましいんだよねえ。若い頃を思い出したよ。こう見えても、結構ヤンチャしたんだよ」
 
 どう見ても、それはない。
 立ち去ろうとした北条を、小寺が呼び止める。

 「これ、いるんじゃない?」

  折り畳まれた紙片を北条に差し出す。

 (人類の最期とか書いてあんのか!? 審判の日みたいなやつ!)

  開いて見た。
  紙片には、ホテル名と部屋番が書かれている。

 「そこに、君の探し人がいるよ」

  北条の目玉が飛び出す。

 「か、課長、これ、どうやって……」

 「ん? だから、若い頃思い出してヤンチャしたんだよねえ」
 
 (信じらんねえ……。分かった! 小寺は宇宙人なんだ!)

  北条の最終結論。

 「ところでね。北条君は、どこで本ボシ(真犯人)の端緒を掴んだの?」

 「端緒なんて大袈裟なもんじゃないっす」

  北条は宇宙人との交信を始めた。
 
  山本を追跡しながら感じた違和感。
  昨夜のテルとの会話後、思い出に耽っていた。
  ストリートで遊びまくったこと(ケンカしまくったこと)。
  そこで、違和感の正体が分かった。

  それは『ストリートの空気』。

  若かりし頃の北条にとって、ストリートは戦場だった。
  建物の中で澱む袋小路特有の空気。
  道が開ける間際の流れ込んでくる空気。

  追い詰めるべき袋小路の空気ではなかった。
  空間から流れ込んでくる空気を感じた。

  開けた空間――車道に追い込んだのだ。
  土地勘のある、地元の者ならではの所業。

  そして、会話の保存目的の名目で、準備されたテープレコーダー。

  嘘だ。

  レコーダーの中は空だった。
  録音目的ではない。

  では、何が目的か? 

  再生だ。

  何を再生するのか。
  それが分からなかった。
  轢き逃げ直後、上杉が明智から『スる』までは。

 「これまでの経緯を振り返れば、簡単だよ」

  小寺が目をショボショボさせ、茶を啜りながらノンビリ説明を始めた。
  その内容に『簡単』ほど不釣合いな形容詞はない。

 「ハムの内部事情から説明した方が、分かりやすいね」
 
 (課長ってハムにいたのか? 宇宙人の人事なんて、どうせ分かんねえけど)
 
 現役のハム捜査員が市民団体の中核など、現代警察でも禁忌だ。
 娘のために立ち上がった時点で、木島は敵性勢力となった。
 潰すためなら、何でもする。
 銃火器横流しも押し付けられるのなら、渡りに船だ。

 しかし、ハムは木島を抹殺できない。
 指一本触れらない。
 
 山本の『本当の』運用者だったから。
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