第68話 大阪へ

文字数 1,091文字

「ほ、ほんとか!?」

思いもよらないチャンス到来ではあった。
しかし、戸惑う部分も少なからずあった。

「今の一茶があたしを見てどう思うかな……?
気味悪がったり迷惑だったりしないだろうか……?」

「そんな訳ないじゃないですか!!
一茶さんは懐の深い人ですよ!!
それに一緒に考えてくれる人が増えれば透子さんが元の世界に戻れる
解決策も見つかるかもしれない!」

眉を下げて微笑むコータローを見て、
その言葉を信じてみても良いかもしれないと思った。

「わかった。
あたしを大阪まで連れて行ってくれ」

あたしが言うと

「お安いご用で!」

とコータローはニカッと笑った。

コータローと話がついたタイミングで
翠さんとマシロと漂が戻って来たのであたしはこう告げた。

「翠さん、あたし、
このままトラックで大阪に行こうと思うんですけど……」

「大阪!? なんでまた!?」

と翠さんは目を大きく見開いた。

「昔の親しくしていた人が今大阪にいるんです。
解決策になるかどうかわからないけど、
一度行ってみようかと思って」

「そんないきなり……
いくら知り合い言うても一人で行かすのは心配や……」

と言う翠さんの言葉を受け、

「俺も一緒に行くよ」

とマシロと漂は声を合わせて言い、
「あ……」とお互い顔を見合わせた。

「みんなで行くんか!?」

翠さんは眉をひそめて言うと

「さーせん、トラックは三人までしか乗れないんです……」

とコータローは申し訳なさそうに言った。

「どっちか一人……」

マシロと漂はしばらくお互い見つめ合った。

先に目を逸らしたのは漂で「ふーーっ」とため息をついた後、

「お前行けよ」

とマシロに言った。

「漂、ごめん! ありがとう!!」

あたしは思わず言葉がこぼれた。
漂は目線を落としつつも、
「気にすんな」と言った風に手をひらひらさせた。

「ほんならコータローさんにお願いがある。
私の実家が大阪パークの近くやねん。
この子らそこまで送り届けてや。
うちのお母さんにはあんたらの事連絡しとくわ」

翠さんは車から手帳を取り出し、
住所を書いて1ページ破り、コータローに手渡した。

「承知しました! 
透子さんと息子さんは無事に大阪まで送り届けます!」

「息子やないねんけどな……」

翠さんはコータローに聞こえるか聞こえないかくらいの声で言った。

「そんじゃ、これやるよ!!」

漂はお墓であたしに被せたハットをまたあたしの頭に乗せて

「顔隠したい場面もあるかもしんねーから」

とぶっきらぼうに言った。

「それじゃ、あたしはあんたにこれ貸したる!」

そう言って翠さんはマシロにサングラスを手渡した。

「ありがとう……」

あたしは言うと

「気いつけてな!」

と漂は手を上げて、翠さんの車の助手席に身を沈めた。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み