第51話 大河の正体

文字数 1,428文字

「さすが双子の片割れだな」

大河は言った。

「その通り、俺は大河じゃない」

あたしは今ここで何が起こっているのか全く理解ができなかった。

「大河は? あいつはどこに行ったんだよ!?」

漂は今にも食ってかかりそうな勢いで言った。

「安心しろ。彼はちゃんとした人物に任せてある。
ここで話すのも何だからひとまずあの家に戻らないか?
それとももう不審人物の俺なんか家に入れたくないか?」

「漂、どうする?」

あたしが聞くと漂はしばらく考えて

「帰って詳しく話を聞かせてもらおう。
その内容次第ではあんたに家から出て行ってもらう」

と言い、三人はとりあえずペントハウスに帰った。

「おかえりーー、あれ? 三人で帰ってきたん?」

顔にシートパックを貼った翠さんが声をかけたが、
漂も大河を名乗る男も無言で二階に上がった。

あたしは

「ただいま!」

とだけ言って、二人の後を追った。

三人は大河の部屋に入り、床に腰を下ろした。

「どこから話していいのか…… 長い話になる」

大河を名乗る男はあぐらをかいた足の上に
手を組んで話し始めた。

「俺の本当の名前はマシロ。
今から35年後の2056年から来た」

「は!?」

「え!?」

漂とあたしは思わず声を上げた。

「どう言う事だよ!?
何でお前、大河と同じ顔で、
それにどうやってここに来たんだよ!!」

漂は言った。

「今まで騙すような形になってしまって申し訳ない。
すぐには理解しがたい話かもしれないが、
これまでの経緯を聞いて欲しい」

大河改めマシロはこちらに真剣な眼差しを向けた。

「俺は未来のとある研究施設からやって来た。
まずは俺の生い立ちから説明させてくれ」

マシロが言い、あたしと漂は聞く体勢に入った。

「俺は生まれてすぐ乳児院で保護されたんだが
すぐに何者かに連れ去られ、研究施設で育てられた。
その施設は秘密裏に運営されていて、
あまり大っぴらにできないような研究も行われていた。
俺はテレポーテーションの研究をしていた部署にいて、
そこでは無戸籍の子を集めて人体実験の被験者として使っていたんだ。
無戸籍の子は行政上ではこの世に存在していない事になっているから、
いなくなっても不都合がない。
そして無戸籍だった俺も被験者として育てられたんだ」

マシロの話はにわかには信じがたい話だったが、
あたしもすでに時空を超えたりしているだけに、
あながち嘘ではないんじゃないかと思った。

「でも俺は物覚えが良くて勉強もできた事もあって、
ある時から被験者ではなく研究者になるべく人間として
教育されるようになった。
10歳くらいになると俺だけ被験者とは別棟の特別棟で生活し、
同年代の仲間との交流も遮断された」

マシロはふぅと息継ぎをするように少し息を吐き、話を続けた。

「俺の近くには最先端の時空間をテレポートできる装置もあった。
ただ、それは研究施設の限られた人間が、
自分たちの営利目的のために作ったもので、
公にはその存在を隠すのはもとより、俺なんかの使用も禁止されていた」

「時空をテレポートできる装置!?
それじゃ、もしそれが使えたらあたしも元の世界に帰れるのか!?」

あたしは言った。

「あぁ、ただこの時代(2021年)ではその装置はまだ試作段階なんだ。
俺はある人物を救出するために研究施設の人間の目を盗んで
未来のテレポート装置を使ってこの時代(2021年)にやって来た。
その人物を救えたら俺は元の世界には戻らず、
その人とどこかに身を隠すつもりだった」

「ある人物ってもしかして……」

あたしが聞くと、マシロは少し間を置いて

「川島橙子という人物だ」

と言った。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み