第14話 その後の梓山

文字数 1,257文字


次の日、人の気配に目が覚めると、
床の間に置かれた時計はもうお昼近くになっていた。

「は!」

がばっと起き上がるとモダンなインテリアの畳部屋に敷かれた
フカフカの布団の中だった。

そうだ、あたしテレポーテーションして……。

昨日の出来事を思い出すのと同時に、
夢じゃなかった事に愕然とした。

あたしはリビングの一角の小上がりになった畳の部屋を
使わせてもらっていた。
布団を畳み、部屋の隅に寄せ、
襖を開けてリビングダイニングに出た。

「おはよう、寝れた?」

翠さんがにっこり笑い、
理事長はダイニングテーブルで新聞を読んでいた。

昨日と同じ犬のキャラクターが付いた、
今日は白のジャージを着ている。
と言うか着させられてる感満載だ。
理事長自体は元々こういう服は着ない人だったのだろう。

まるであたしと理事長がペアルックみたいな感じに萎えながら

「おはようございます。
すみません、こんな時間まで」

とあたしは頭を下げると

「疲れてるんよ。 今日は日曜日だから気にせんと。
何か食事用意するね」

と翠さんはキッチンに立った。

この時代のキッチンはリビングと一体になっていて部屋が分かれていない。
リビングの中にシンクやガス台兼調理台が置かれているのは、
ちょっと奇妙にも思う。

蛇口の水は手を近づけただけで手を触れる事なく出る。
未来ってすげーな。

「どうぞ、座んなさい」

理事長に促され、あたしはダイニングの椅子を引くと、
そこにレモンがまたベロを出してぼーーっと座っていた。

「あらあらレモン! こっち来なさいねーー」

と理事長は「よちよち」と言いながらチワワを抱き上げ、
ソファに移動した。

骨抜きじゃねぇか……。

そう心の中で呟きながらあたしは椅子に座った。

すると階段からダンダンと足音がして

「ふわーー」

と大きなあくびをしながら大河が降りて来た。

「漂は?」

と大河が聞くと

「とっくにトレーニングに行ったよ」

と翠さんが言った。

「あんたも食べる?」

と翠さんは二人分の遅めの朝食、
トーストと目玉焼とウインナーのお皿をテーブルに置いた。

「で、君は今日はどうするかね?」

理事長が話しかけてきた。

「これ以上お世話になるのもあれなんで、
梓山に帰ってみようかと思うんですけど」

あたしが言うと、三人はまた昨日のように顔を見合わせた。

「あの、何か問題でも……?」

あたしがみんなの顔を伺うように聞くと

「透子くん、落ち着いて聞きたまえ」

と理事長が真顔で言い、
翠さんと大河は目線を下に伏せた。

「梓山高校のあった辺りは、
35年前の台風の影響で地滑りが起きて、
壊滅的な被害が出たんだ」

「え?」

ゾッとするでもドキッとするでもなく、
パーン!と脳に煙幕が張られた気がした。
頭の中が真っ白になるってこう言う事か。

「高校の校舎は使えなくなり元の場所から移転した。
集落では土砂に飲み込まれた人もいたが、
ほとんどが救助されて奇跡的に死者は出なかった。
だが、たった一人行方不明者が出たんだ」

あたしはゴクリと唾を飲み込んで理事長の次の言葉を待った。

「その子の名前は片瀬透子。
そう、君なんだよ」

理事長は真っ直ぐにあたしを見て言った。
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