第7話 テレポーテーション

文字数 1,379文字

「天国…… に行くのかな?」

土砂に飲み込まれ、絶体絶命のはずのあたしは、
うっとりと光とともに漂っていると、
だんだんとその光が渦を巻き、
何か形が出来上がっていくように見えた瞬間、
ズサーッとどこかの空間に投げ出されるような感覚がした。

「痛…… 」

はっと我に返ると、あたしは木の床に横たわっていて、
そこにはベッドや机、本棚が配置されており
見知らぬ誰かの部屋のようだった。

「天国…… じゃない……?」

顔を上げると目の前に若い男がびっくりした顔で立ったまま、
こちらを見ていた。

「うわぁぁぁ!!!!」

あたしが言うと、その声に驚いたように

「うわぁぁぁ!!!!」

とその男も声を上げた。

そして目を見開いてあたしの顔をまじまじと覗き込み、

「と、とうこか?」

と聞いた。

あたしはその男とどこかで会った事があるか考えたが、
見覚えはない。

「と、とうこ…… だけれども」

一応そう答えた。

若い男は眉をひそめて、
私の顔を見つめたままわずかに首を傾げ、

「いや、とうこじゃないな」

と言った。

「いや、とうこです」

訳がわからずあたしは続けると、
おもむろに男は私のほっぺたをむにっとつまみ

「幽霊でもなさそうだな」

と言った。

すると部屋の外からドスドスと足音が近づいて来た。

大河(たいが)! 何大声出してんだよ!
って言うかまたドライヤー部屋に持ち込んでんだろ!?」

足音は部屋の前で止まり、ガチャリとドアが開いた。
部屋に入って来た男は目の前に立つ男と瓜二つだった。

え? 双子!?

後から来た男は風呂上がりなのか
ほのかに石鹸の香りを纏い、
上半身裸で首からタオルをかけている。

「うわっ!!」

その男もあたしを見て半歩ほど後ずさりをした。

「たた、大河!! お前! 女連れ込んでんのかよ!!」

「連れ込んでねーー! いきなり現れたんだよ!!
って言うかドライヤー俺じゃねーし!!」

「ドライヤーはともかく、この女……
は! このレトロ感はもしや幽霊!?」

この時、あたしはいつもの制服のセーラー服姿だった。
だが、土砂にまみれたはずが汚れも傷もない。
そして半裸の男はあたしの足元に目をやった。

あたしも自分がもしかしたら幽霊なのかもしれないと
少しスカートを捲って足を確認したが、
足は二本とも生えていた。

「いや、違うと思う」

最初からいた方の男は言った。

「ちょっと! さっきからまるであたしが
怪しい人間みたいな言われようだけどさ、
あんたらこそ何者なんだよ!!」

あたしは二人に突っかかった。

「勝手に人んち上がり込んどいて随分威勢がいいじゃねーか。 
おまえ泥棒か? 
まぁ、不法侵入者には変わりねーと思うから警察に突き出すぞ!」

半裸の男はあたしの腕を掴んだ。

「痛い! 放せ変態!!」

あたしは叫んだ。

「へんたいだぁーー!?」

眉を歪ませて半裸の男は叫んだ。

「よせよ、(ひょう)。 
俺ずっとここにいたからわかるけど、
本当に急に現れたんだ」

先の男は言い、
あたしの目の高さに合う位置に腰を落としてあぐらをかいた。

「俺は目黒大河(めぐろたいが)、この家に住んでる者だ。
そしてこいつは俺の双子の弟、(ひょう)

そう言ってにっこり微笑みながら手を差し出した。

「あ、あたしは片瀬透子(かたせとうこ)……」

そう言って差し出された手を握り、お互い握手をした。

「もしかしたらこれは
俺の研究に大いに関係する事かもしれない」

大河は言った。

「研究? 何の?」

あたしが聞くと大河は目を輝かせて

「テレポーテーションだよ!」

と言った。

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