第43話 ないものねだり

文字数 1,169文字


あたしの帰還についての進展は特にないまま、
変化のない日々が続いた。

「おい、聞いてたか?」

突然大河に声をかけられてあたしは
はっ!とスマホから顔を上げた。

「ごめん、聞いてなかった」

「おいおい、お前最近スマホに集中しすぎてねーか?」

大河は科学部の部室のデスクに座り、
怪訝な表情でこちらを見ている。

「気がつくと見ちゃって。ごめん」

あたしはスマホをスカートのポケットにしまうと、
ブルっとスマホが震えた。
またメッセージが入ったのだろう。
き、気になる……。

金田や葵さんの件が一段落して生活は落ち着いていた。
あたしも大分この時代の生活に慣れて、
ラインで金田や桃奈とやりとりするのが日常になっていた。

「スマホも使いすぎると、
スマホ依存で生活に支障出るから気をつけろよ」

大河はあたしをたしなめるように言った。

「わかったよ」

あたしはぶっきらぼうに答えた。

ペントハウスでも気がつくとあたしはスマホを見ていた。

「透子ちゃん、食事中はスマホ見るのやめ」

翠さんにも注意されるようになった。

理事長にはこの間のテストの結果が酷すぎて、
「このままの成績じゃだめだよ」と釘を刺されてしまい、
夕食後に再び大河に勉強を見てもらう事になった。

でも、正直勉強かったりーーーー。

集中力を欠いているのが大河に伝わったのか

「おい、お前やる気あんのか!?」

と少し強めに言われた。

「あるよ!! やるってば!!」

そう言って参考書に向かったが、やはり集中できない。

「今日はもう止めよう」

大河はそう言って参考書を閉じ、畳部屋から出て行った。

あ…… 怒ったかな?

やばいかな? と思ったが、めんどくさくなり、
「まぁいっか」と、その日はさっさとお風呂に入って寝てしまった。

「透子ちゃん! 透子ちゃん!!」

あたしを呼ぶ声がして意識が徐々にはっきりしてくると、
襖の向こうで翠さんが呼んでいるのに気がついた。
はっと時計を見るともう10時近くになっていた。

「おはようございます……」

まだぼんやりした頭で襖を開けると

「休みの日だからっていつまでも寝てたらあかんよ。
食事も片付かんからはよ食べてや」

と言ってパタパタとキッチンに戻った。

最近、翠さんはあたしの素行にあれこれ口を出すようになった。
出かけて帰りがちょっとでも遅くなるとすぐに電話かメッセージが入る。

犬の散歩や食事の準備の手伝いを命じられ、
服を勝手に選んで買って来たり、
言葉遣いや恋愛関係にも(今の所その心配はなさそうだが……)
あれこれ言ってくるのだ。

梓山のアパートで暮らしていた時は、
監視の目がほとんど無かったので寂しさを感じた事はあれど、
自由気ままだった。
人の目があればあったで寂しくはないが、
正直うっとうしい事もある。

翠さんは基本的には良い人だし、
世話になっている身でこんな事を思ってはいけないが……。

そう自分に言い聞かせていたが、ある日事件は勃発した。

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