第81話 ウイスキー工場

文字数 1,169文字

藤巻さんはひとまず夜になるのを待つようにあたしたちに言い、
帰りが遅くなりそうだったので、
藤巻さんから虹子おばちゃんに連絡を入れてもらった。

「心配やわーー。起きて待ってるわ」

虹子おばちゃんは言ったがあたしとマシロは
「こっちは大丈夫だから先に寝ていてくれ」と伝えた。

夜の10時を回った頃、あたし達はミッションを開始した。

ウイスキー工場の敷地に入ると、何棟かの建物があり、
そのうちの一つの従業員専用扉から建物の中に入った。
建物に入ると藤巻さんは手慣れた様子でセキュリティを解除し、

「私は研究施設の管理も兼ねてあの教会に住んでいるの」

と鍵の束を音がしないように慎重に扱いながら言った。

建物の中の殺風景な廊下を歩き、
また扉があったが今度は暗証番号を押して中に入った。

そこから階段を降りて地下に入り、
また扉を開けるとそこはウイスキーの貯蔵庫で、
大きな樽がいくつも並べられた空間が広がっていた。

「ウイスキー工場はカモフラージュで、研究施設は更にこの下よ」

貯蔵庫の一番奥の壁の一部を押すとパカっと小さな扉が開き、
ピッと指紋を押し当て壁を押すと、
ギィと音を立てて人が一人通れる程の扉が開いた。

「未来のスパイ映画みたい」

思わずあたしは言った。

更に下に続く階段を降りて行くと、
無機質な灰色の通路に出て、角をいくつか曲がった。

「ここは監視カメラがあるから伏せて」

と言われた場所は、カメラの死角になる位置に
姿勢を低くして壁に沿って歩いた。
藤巻さんがいなかったら帰れないなと思うほど、
複雑な作りの廊下の奥に、最後の扉があった。

「いいわね?」

藤巻さんは確認するように聞いた。

「はい」

マシロとあたしは答えた。

ここは二重の扉、二重の鍵で管理されていた。
重くて厚い扉を藤巻さんは力を込めて押すと、
そこは10畳ほどの空間でひとつひとつ区切られた棚があり、
それぞれの中にビニールで覆われた機械のパーツが置かれていた。

「これよ」

藤巻さんが指差したそれは両手に収まる程の大きさのパーツで、
思ったより小さなものだった。
藤巻さんは慎重に棚からパーツを取り出し、マシロに手渡した。

「無事に帰れる事を祈るわ……」

とだけ藤巻さんは言った。

パーツを手に入れたあたし達は、
藤巻さんにタクシーを呼んでもらい、
虹子おばちゃんの家に向かった。

「大丈夫かな? 藤巻さん。
管理していたパーツが盗まれたのが知れたら
真っ先に追及されるんじゃ……」

あたしが言うと

「かもな……。
でもそういう事を想定して俺は自分の指紋を残して来た。
気休め程度にしかならないかもしれないけど、
藤巻さんにとって何かしらの時間稼ぎになればいいなと思って」

マシロはそう言いながら
パーツを包んでいるパーカーを開き、中を確認した。

「もし追及されても、
ルリオ君と二人でどこかに逃げてくれれば……」

あたしが言い、マシロも

「あぁ、そうだな」

と答えた。

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