第56話 留守番

文字数 925文字


数日後、久しぶりに学校の屋上で、
桃奈と金田とお弁当を食べていると、

「ねぇねぇ、大河様と漂様と一つ屋根の下で生活してて
意識とかしないの?」

と桃奈がわくわくした表情で言った。

「えーー そんな意識はした事ないなぁ」

あたしは箸を持ったまま空を見上げて言った。

大河改めマシロは相変わらずお腹が弱いし、漂は単細胞。
それに翠さんや理事長もいるし、
これまで男として意識した事はない。

「従兄妹でも結婚ってできるんだよね?」

金田はお弁当箱からご飯を口に放り込みながら言った。

「きゃー! 私だったらあんな二人に囲まれてたら
ドキドキしてまともに生活できないっ!!」

桃奈は目をぎゅっとつぶり、身をよじらせた。
従兄妹どころか全くもっての他人なのだが……。
でも他人って事はそれこそくっつこうがどうしようが自由って事で……。

いやいや、何を考えているんだ!!
あたしは頭をぶんぶんと振った。

家に帰ると、翠さんが旅行カバンに理事長の衣類などを詰めていた。

「理事長、どこかに行くんですか?」

あたしが聞くと

「神戸に出張や。明後日の土曜日から三日間」

「へー」

あたしが言うとそのタイミングで
「ただいまー」と漂が帰って来てリビングに顔を出した。

「あぁ、漂も帰って来てちょうど良かった。
あのな、二人に言っとくけど銀次郎さんの出張の日、
私友達と日帰りドライブに行くんよ。
夜には戻って来るけど日中三人で大丈夫やろか?」

「昼間だったら三人で大丈夫っしょ」

あたしは言った。

「え! そうなの!?
俺、明後日から一泊の合宿に参加するってさっき顧問に言っちゃった!」

漂は焦ったように言った。

「そんな急やなぁ。
それじゃ透子ちゃんと大河二人だけになってまうわ」

困ったように眉をひそめて翠さんは言った。

「大河と二人だけ……?」

漂の顔が曇った。

「大丈夫だって! 翠さん夜には帰って来んだろ?
大河は基本部屋にこもりきりだし」

あたしも「え?」とは思ったが、
変に気を使わせたくなかったので、笑顔を作って答えた。

「せやな。まぁでもなるべく早く帰るようにするわ」

大河とこの家に二人だけなのはドキドキするが、
あたしは出かけてしまえばいいし、大丈夫!
そう自分に言い聞かせた。

漂は黙ったまま口を真一文字にキュッと結んで
あたしの顔を見ていた。

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