第36話 翠さんの写真

文字数 1,904文字

それからの一週間、あたしと漂はこのペントハウスからも
バザーに出品する物がないかみんなに聞いて回った。

「ペットの洋服とかもう売れへんデザインの在庫が余ってるから
持って行ってええよ」

翠さんは犬用の服を何着か譲ってくれた。

「頂き物のウイスキーや日本酒なんかで良ければ持っていきなさい」

理事長も書斎に積まれた箱を指差して言った。

「間違えて2個買っちゃったタブレットのケースとかでも良ければ」

大河も出品に協力してくれた。

「うちだけでもなかなかの収穫だな!!」

「そうだな!」

あたしと漂は顔を見合わせた。

「この中のも売れそうなものあれば、持って行き。
数回しか使ってへんバッグとか入ってるさかい」

翠さんは私物が入った段ボール箱を一つ置いて行き、
中を開けてみると新品同様のまま不織布の袋に入ったハンドバッグや、
きれいな箱に入ったヘアアクセサリーなんかが入っていた。
品物を一つ一つ取り出すと、ダンボールの底の方に
古びたポケットアルバムが紛れ込んでいるのを見つけた。

「アルバム!」

あたしが言うと

「見てみよう」

と漂が中を開いた。

そこには若かりし頃の翠さんの写真が収まっていた。

「ギャハハハ!!」

中の写真を見て漂は腹を抱えて笑い転げた。
その翠さんはまるで梓山にいた頃のあたしみたいに、
いや、もっとハードな感じで写っている。

あたしが着ていたヤンキーファッションは
制服のズル長スカートくらいだったけど、
写真の翠さんは真っ赤な特攻服で仲間としゃがみこんで
こちらにガンを飛ばしている。

ちなみに特攻服には

「咲いてみせます、咲かせます。
愛、あなたに・・・」

と書いてあった。

「マジウケるんだけど!! 翠さんガチじゃん!!」

漂は翠さんのヤンキーセンスがどうやらツボらしい。
目に涙を浮かべて苦しそうにまだ笑っている。

「透子もこんなだったのか?」

「いや、あたしはここまでは……
って言うか今の時代はこういう奴はいないのか?
学校のみんなも上品ないい子ちゃんばっかで」

「いねーよ!! 絶滅危惧種だろ!!
こんなのドラマか映画でしか見たことねー!」

「そ、そうなのか!?」

自分の時代ではカッコいいとされていたものが、
この時代では笑いのタネにされるのか……。

少なからずショックを受けた。

「なぁ、あんたらの写真はないのかよ?
双子って可愛かったんじゃねーの?」

気を取り直しあたしは漂に言った。

「俺らの? あるけど見てみるか?」

そう言って漂はリビングに備え付けの棚から
一冊のアルバムを取り出した。
そこには同じ顔でこちらを見て
満面の笑みを浮かべる赤ちゃんの写真があった。

「かわいい!
二人にもこんな時期があったんだな……」

あたしは思わず目を細めた。

幼稚園、小学校時代とページをめくると、
後半の方で大河が雪の上でサーフボードの様な物に乗って
勢いよく滑っている写真が目に入った。

「これって何? 
スキーのサーフィン版みたいな……」

「あぁ、そっか。これも知らねーのか。
これはスノーボードだよ。
まさしく雪の上のサーフィンとかスケボーみたいなもんだな」

「へー」

初めて見るスノーボードというものに対しても興味深かったが、
大河がこんなにアクティブな感じなのが意外に思った。

「大河、こんな活動的な面もあるんだな。
いつも部屋に籠ってインドアな奴なのかと思ってた」

「そうだな……」

そう言って漂はしばし黙り込んだ。

「ん? 何?」

あたしは漂の顔を覗き込む様に見た。

「あいつ…… 前はあんな奴じゃなかったんだ」

ぽつりと漂は言った。

「え?」

「実は今年の初め頃、あいつ友達とスノボに出かけたんだけど、
勢い余ってコースアウトして崖下に落ちたんだ」

「そうなの!?」

「うん、で更に不可解な事には、
崖下の捜索をしたんだけど大河は見つからなくて、
その日の捜索は打ち切りになったんだ。
で、次の日の朝また捜索を始めようとしたらロッジの裏手に
ぼんやり立っている所を発見されたんだ」

「何だよその話!」

今まで大河にそんな事があったなんて
微塵も思っていなかっただけに驚いた。

「しかも発見時スノボのウェアは着ていなくて、
普段着でいたんだ。
スノボのウェアは未だに見つかってない」

「大河は? 大河に聞けばわかるんじゃねーの!?」

「それが、あいつその事故以降、少し記憶障害もあって、
事故当時の事とか昔の事とかもあんま覚えてねーんだ。
勉強とかそっち系には支障がねーんだけど、
逆に勉強しすぎるようになったっつーか、
事故前はあんなサイエンスおたくでもなかったんだ」

「日常会話は普通なのにな」

あたしは言った。

「一応、あいつにはその事触れないでおいてくれるか?
俺が喋ったって事は内密に……」

漂は頼むといった顔で言ったので

「わかった」

とあたしは答えた。


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