第50話 不審者の侵入

文字数 1,326文字

「透子ーー? どこ行った?」

廊下から漂の声がしたので、あたしは慌てて名簿を閉じ、
職員室から出た。

すると

「あ! いたいた! 何してんだよ。
おやつの準備できたよ!」

と漂がダイニングから廊下に顔を出していた。

ダイニングに入ると

「外でお巡りさんと話してたら準備遅れちゃって、ごめんなさいね」

と藤巻さんは申し訳なさそうに言った。

「お巡りさんって何かあったんですか?」

あたしが聞くと

「えぇ、最近この施設内に誰か侵入した形跡があって、
パトロール強化をお願いしたのよ」

「え! それ怖いですね!」

あたしはミニパイの袋を開けながら言った。

「近所で不審な男を見かけたって情報もあって……」

藤巻さんは言った。

「怪しいなぁ」

漂もハッピークーンを頬張りながら言った。

「何か心当たりは?」

とあたしが聞くと

「もしかして灰谷が何か嗅ぎ回ってたりするんじゃ!!」

と漂が言った。

「この施設は夜は私と子供たちだけになるのよ。心配だわ」

藤巻さんが不安そうに言うと

「それじゃ、俺もパトロールに来ますよ!」

と漂が言った。

「ありがとう、助かるわ。でも無茶しないでね」

と藤巻さんは心配しつつもほっとした表情を見せた。

早速その日の夜、夕飯を済ませた後に、
翠さんには「ジョギングに行く」と言って、
あたしと漂はぷりずむ苑に向かった。

夜の9時過ぎの施設は、
二階建ての居住エリアである東棟はまだ明かりがついていたが、
ホールや職員室のある平屋の西棟は真っ暗だった。

「誰もいないっぽいな……」

あたしが言うと

「そうだな」

と漂も言い、「今日は帰るか」と言いかけた時、
西棟の廊下のすりガラスの窓に人影が映った気がした。

「誰かいる!?」

あたしと漂は顔を見合わせてそろそろと建物に近づいた。

「入るか?」

漂は「何かあったら」と藤巻さんから預かっていた
西棟の鍵をポケットから出した。

「うん」

ごくりとあたしはつばを飲み込み、
漂は静かに鍵穴に鍵をさした。
最大限の注意をし、最小限の音で鍵を開けると、
あたしたちは慎重に中に忍び込んだ。

心臓がドキドキ鳴っている。
でも、漂だったらいざという時戦ってくれるだろう。

先ほど人影が見えた廊下を進み、奥に進むとそこは職員室だ。
そろりそろりと職員室に近づくと、ドアが少し開いていた。

あたしと漂は目配せをし、漂が勢いよくドアを開けると、
中にパーカーのフードをかぶった男がいて、
後ろ姿の肩が「ハッ」と上がった。
男は手元の書類にペンライトをかざしている。

「お前! ここで何をしている!!」

漂が大きな声を出したが、
パーカーの男はこちらに背中を向けたままだった。

「誰だ! こっち向けよ!!」

漂は空手の構えで威嚇しながら言った。

パーカーの男は観念したように
ペンライトを持っていた手をだらりと下に下ろした。
そしてゆっくりとこちらを振り向き、
あたしはその顔を見て衝撃が走った。

「俺だよ」

そこに立っていたのは大河だった。

漂はまだ空手の構えでそこに立っている。

「大河…… なんで?」

あたしが問いかけると漂は思いもよらない言葉を投げかけた。

「お前? 誰だ?」

大河は黙ってこちらを見ている。

「誰って大河じゃん!」

あたしが言うと

「前から何かおかしいと思ってたんだ。
お前、大河じゃないだろ!?」

漂は大河に向かって睨みをきかせた。

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