第78話 北風と太陽

文字数 1,204文字

ひとまず出直そうとその日は虹子おばちゃんの家に戻った。

「探してる人には会えたんか?」

おばちゃんは夕飯のブリの照り焼きと磯辺揚げを
コタツ布団が掛かった座卓に置きながら言った。

「会えました。
ただ、別の思ってもいなかった人にも遭遇して、
その人に頼み事があるんですけど受け入れてもらえなくて……」

マシロが肩を落として言うと

「そうか……」

と虹子おばちゃんも残念そうな顔をしたが、
こう話を続けた。

「人にものを頼む時はな、ゴリ押ししたらあかんねん。
まずは相手の心を開かせる。
『北風と太陽』って話があるやろ?」

「心を開かせる?」

あたしはおばちゃんの顔を見た。

「そうや、この人と一緒におったら楽しいとか心地ええなと思わせたら、
多少の無理難題言うても『何とかしたろ』って思うもんや」

おばちゃんはそう言って味噌汁をよそいに台所へと立った。

「楽しいとか心地良いと思う事……」

あたしとマシロは虹子おばちゃんの言葉を繰り返し、
顔を見合わせた。

次の日、あたしとマシロはまたあの教会に向かった。

裏庭の様子を伺っていると、昨日と同様ルリオが出て来て、
サッカーボールを蹴り始めた。

「ルリオ君!」

あたしは小声で呼びかけると、ルリオはこちらを見た。

「ちょっとちょっと!」

と手招きをして、ルリオを呼び寄せると

「何ですか?」

と少し警戒気味にルリオは言った。

「あのさ、これから大阪パークに行かない?」

あたしはルリオを遊園地に誘った。

「え?」

ルリオはパッと花が開いたような顔を見せたがすぐに、

「でもお母さんが心配するし……」

と遊園地に行くのを躊躇した。

「大丈夫! 遊んだらちゃんとここには帰すから!」

マシロも言った。

「せっかくの冬休みでしょ? 遊ぼう!!」

あたしが追い打ちをかけると、家の方を振り返りつつも

「それじゃ……」

とルリオはあたし達とともに教会を出た。

三人でやって来た大阪パークは中規模の
極々普通の遊園地だったが、
園内は冬のイルミネーションで彩られ華やかな雰囲気だった。

「わぁーー」

あたしはこう言った場所に来るのは初めてだった。
そしてルリオとマシロも同じく初めてな様だった。

「あれ乗ろう!!」

ルリオは先陣を切ってジェットコースターの方に走って行った。
何だかんだ言っても遊園地は楽しい年頃だ。
ジェットコースターはルリオとあたしが同じ列に座り、
マシロが後ろの列に座った。

コースターはカンカンと言いながら上昇していく。

「すげーー!!」

ルリオは下を見下ろして興奮していた。
風が前髪を揺らす度に、あたしの心拍数も上がる。
するとコースターは頂上に到着し、すぐさま急降下を始めた。

「キャーーーー!!!!」

あたしたちは叫び声を上げたが、爽快な気分だった。

「イェーーイ!!!!」

レールを下り、カーブを曲がる度、
あたしとルリオとマシロは両手を上にあげて声を上げた。

その後もゴーカートやティーカップ、
観覧車などアトラクションに乗りまくり、
あたし達は大阪パークを楽しんだ。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み