第27話 三人の事情

文字数 979文字


「事の発端は俺が莉子のワガママについていけなくなって、
悩んでた時期があったんだ。
その時すっと傍に寄って来て親身になって話を聞いてくれたのが朱里で、
俺、魔が差して朱里にキスしちゃったんだ」

紺野は重々しく口を開き、
金田は黙ってテーブルをじっと見つめていた。

「それから俺は何度か朱里と会う様になったんだけど、
その中でやっぱり莉子が大事なことに気がついたんだ。
それで二股状態になってた朱里に謝って別れようと思ったんだけど、
そしたらあいつ『浮気した事莉子にバラす』って言って……」

紺野はまた小さくため息をついて話を続けた。

「俺は脅しだと思ってしばらく無視してたんだけど、
あいつ、本当に莉子にバラしたんだ。
莉子に自撮りのキス写真送りつけて……」

なんと、自分で撮ったキス写真を送りつけるとは、
今時の子はやる事がえげつないな。
あたしはキスすらした事ないってのに……。

「で、俺は結局浮気がバレた形で莉子にフラれて、
それを機にまた朱里に付き合ってくれって迫られて。
今度は『付き合ってくれないと莉子に何するかわかんないよ』って」

「脅迫か……」

大河の言葉と共に重い空気がボックスの中に流れた。

「しばらくして私も冷静になって、浩輔と二人で話をしたの。
私のワガママが原因なんだったら
悪い所は直すからやり直そうって話になったんだけど、
そしたらあいつが……」

目に涙を溜めた金田は言葉に詰まり、
代わりに紺野が話を続けた。

「バトン部で莉子にいじめられているとか、
ある事ない事周りに吹き込み始めて。
あいつ(朱里)の見た目のせいで朱里に同情する奴の方が多いんだ」

「バトン部で一年なのにレギュラーになれたのは
先生や先輩に取り入るのが上手いからだって吹聴もされて。
一年でレギュラー入りした私を良く思ってない人もいるから、
それを信じちゃう人も多くて」

金田は込み上げる悔しさを抑えるかの様に
目尻に流れ出そうになった涙を指でぬぐった。
そう言う事を信じる奴らは、
金田が早朝から一人で練習しているのを知らないのだろう。

「厄介な奴にタゲられたな。
まずそういう奴は、普通に取り合っても太刀打ちできない。
巧妙な手口でどうしたってこちらが加害者の立場に立たされる」

大河が口を開いた。

「それって解決策はないのか?」

あたしは聞いた。

「無くはないが、二人ともそれなりの覚悟は必要だ」

そう言って大河はまたフライドポテトを口に放り込んだ。

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