第85話 ヤバイ!!

文字数 1,780文字

土曜日、あたしはいつものように
翠さんにレモンとライムの散歩を頼まれ、
ガラガラと犬の入ったカートを押し、学校にやって来た。
結局マシロはテレポート装置の試験運転をレモンで試すことにしたのだ。

マシロはこれまで閉じられていた科学部の半分の部屋の鍵を開けた。
あたしはゴクリと緊張しながら装置のあるの部屋に足を踏み入れ、
その中にあった物を見て息を飲んだ。

「こ、これは……」

想像していたものとイメージが……。

そこには人一人入れるくらいの
巨大なガチャポンマシーンのようなものがあった。

「ガチャガチャ!?」

気が抜けたように装置を指差して言うと、

「透明のケースに送信したい物を入れてハンドルを回すんだ。
ちなみに形状はただの俺の趣味」

とドヤ顔で腰に手を当てて言った。

「マジでやんのかよ?」

三人で楽しくやりたいと言ったあたしの気持ちを汲んでくれているのか、
今日は科学部の部室に漂も来ていた。

「仕方ない。 
でもちゃんとこの装置が出来てれば問題ない!」

マシロは語気を強めて言った。

「ごめんね、ちょっと我慢してね」

あたしはレモンを抱きかかえ、
脚立に登ってガチャポンの中に入れた後、装置の外に出た。

「レモンの数式は事前に俺が作った生体スキャナーで
スキャンしたものを入力してある。
で、今日は2022年1月15日と……」

ガチャポンのハンドルの下には年月日を打ち込む所があり、
マシロは今日の日付を入力した。

「今回は入れ替わりじゃなく、単体で空間移動だけの実験になる。
他の数式の存在が干渉しないような設定もした。
日にちを決めないと適当な時空間に飛んでしまうけど、
日にちを指定してやればその範囲内でしかテレポートしない。
場所はペントハウスの緯度と経度を指定した」

「心配だなぁ。いなくなったら翠さん大変だぞ」

漂は眉をひそめて言った。

「俺の作ったものだ。大丈夫」

マシロは自信ありげな表情でハンドルに手をかけた。

「ねぇ、基本的な質問だけどあたしは日にち指定しなかったから、
時空を飛び越えたの?」

あたしが聞くと

「おそらく。
紫苑とルリオ、大河と俺は日にちが指定されていたから、
他の時代に飛ばされず相互干渉が狙い通りにいった。
透子は1回目の実験の時だったから、
そこら辺がまだ確立されてなかったんだろうな」

「なるほど」

ひとまずあたしは納得した。

「それじゃ、行け!! レモン!!」

マシロはハンドルをガチャガチャと回し始めた。

すると透明のケースの中に光の玉が次々と現れ、
レモンの体が光で包み込まれた後、
ふっと光ごとレモンの姿が消えた。

「き、消えた!!」

あたしと漂は声を合わせた。

「これでペントハウスにレモンがいれば成功だ!
さぁ、帰るぞ!!」

マシロはあたしと漂を促し、
三人とライムは急いでペントハウスに戻った。

バタバタと三人は玄関になだれ込み、
「レモンーー!!」と呼んでみたがリビングはシーンとしていた。

「あれ? いない?」

じんわりと変な汗が出て来た。

「レモンーー!!」

マシロと漂もテーブルの下や
ソファの周りを探したがレモンは見当たらなかった。

「やばい!!!!」

三人の額には冷や汗が浮かんでいた。

レモンがいなくなり、どうしようとオロオロしていると、
ガチャと玄関が開く音がし、
三人ははっと身構えて、玄関の方を見た。

すると翠さんが

「店の商品補充していたら、後ろにこの子がおったんよ」

と不思議そうな顔でレモンを抱いていた。

「レモンーーーー!!!!」

三人は脱力してその場にへたり込んだ。

「なんや? あんたらどうしたん???」

翠さんは驚いた顔で言った。

「ごめんなさい、散歩中はぐれちゃって探してたんです」

マシロが機転をきかせて言った。

「そうやったんか! でも一人でちゃんと帰って来たんやなぁ。
えらいえらい」

翠さんはレモンの頭を撫でて言った。

「ほな、あたしは店にもどるさかい、レモンをよろしく頼むわ」

とレモンを床に置いて翠さんは玄関を出て行った。

「良かった! レモン!!」

あたしはレモンを抱き上げた。

「レモンは翠さんが大好きなんだな。
レモンの想念が翠さんにより近い場所に着地させたんだな」

マシロも脱力した笑顔を見せて言った。

「って事は試験運転は……」

あたしが言うと

「バッチリだ!!」

とマシロは言い

「やったーー!!!!」

とあたしたち三人はハイタッチで喜んだ。

喜んだけれども……

それはあたしがこの場所を去る日が近いという事も意味していた。

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