第66話 ドライブインにて

文字数 905文字

梓山を訪ねる旅は、
あたしが元の世界に戻れるような手がかりは掴めなかったが、
母さんに会えたことは大きな収穫だった。

母さんの気持ちが聞けた。
母さんはいつだってあたしの事を思ってくれてた。

ずっと心のどこかに穴が開いて、隙間風が吹いているようだったけど、
今は少し暖かい風に変わっている。
必ず元の世界に戻って今度はあたしも母さんを支えよう。

「そんならもう東京に向かうけどええか?」

翠さんが言い

「はい、帰りましょうか」

とあたしは答えた。

車はまた国道をひた走り、
高速に入る手前のドライブインに入った。

「ガソリン入れてくわ、トイレも今のうち行っとき」

翠さんはそう言いながら駐車場を進むと、
思ったより混雑していて普通車のエリアが埋まっており、
そのまま大型車の駐車エリアまで来てしまった。

「あーー 大型車専用やけど、仕方ないね。
ここに停めさせてもらうわ」

翠さんは車を停め、あたしたちは車を降りて伸びをしたり、
上着を着たりしていた。

隣には大きな貨物用のトラックが停まっていて、
あたしたちは車の間をすり抜けようとした時、

「ちょっと! すいません!!」

とトラックの運転席から運転手が顔を覗かせた。

「あ! やっぱりここ停めたらあかんかったやろか……!?」

翠さんは少し慌てた様子で

「ここ駄目ですか!?」

と大きな声で言うと

「いや、そうじゃなくて、みなさんどっから来たんすか!?」

と50歳くらいの白髪混じりの運転手は
少し驚いたような顔で言った。

「東京から湯の中温泉に行って、梓山に立ち寄ってました。
梓山はこの子の地元なんで」

翠さんはそう言ってあたしの後ろに立ち、
あたしを前に突き出すように両腕を掴んだ。

「お嬢さん、あの…… もし人違いだったら、さーせん。
もしかして透子さんじゃないですよね!?」

「え!?」

その場にいた四人は声を上げた。

って言うか、その口調どこかで聞き覚えが……。
あたしはその皺だらけの白髪混じりの運転手をじっと見つめた。
あぁ、この目の感じ…… これは……。

「お前、コターローか!?」

あたしは運転席に二、三歩近寄り言った。

「はい! 黄太郎です!! 
やっぱり透子さんなんすか!?」

笑みと驚きの混ざったような表情でコータローは言った。

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