第77話 マシロの憤り

文字数 1,094文字

「何だって!?」

マシロは今にも藤巻さんに掴みかかりそうな勢いだった。

「紫苑とルリオの入れ替わりに成功してしまえば、
私はもうテレポート研究の事はどうでも良かった。
研究施設もこの装置は自分たちだけのものにするため、
存在は隠すつもりでいるわ。
でもそのままの状態で置いておけば、
誰かに見つかって自分たちの利益が脅かされるかもしれない。
だから装置を解体して保管してるの。
もし外部の人間がその装置を使ったらただでは済まされないわ」

「ただでは済まされない?」

あたしは聞いた。

「口封じのために消されるか、
一生被験者として研究施設に幽閉されるか……」

「でも俺らは場所だけでなく時空も超えて来た。
装置を使って別の時代に逃げちまえば、
研究施設の奴らもそこまでは追って来ないだろう?」

マシロが言うと

「それはそうだけど……」

と藤巻さんは口ごもった。

「研究施設でのテレポートが難しいのであれば、
俺は今、テレポート装置を独自に作ろうとしている。
でもどうしてもコアになるパーツだけは
俺の技術では作れそうもないんだ。
コアパーツだけでも手に入ったりしないだろうか?」

マシロは藤巻さんに頼み込んだ。

「私がそれを持ち出した事が研究施設に知れたら、
私とルリオの立場も危うくなるわ。
やっと二人で静かに暮らせるようになったって言うのに……」

藤巻さんは困った顔をして言った。

「透子は今、その親御さんや
元の場所の仲間と引き離されて暮らしてるんだぜ。
その辛さ、あんたも良くわかってんだろ」

マシロは藤巻さんを説得にかかった。

「透子ちゃんには申し訳ないけど、それは飲めないわ。
悪いけどもう私達親子の事はそっとしておいて欲しいの。
もうここにも来ないでちょうだい」

そう言って藤巻さんはあたしとマシロを追い立てた。

「待って! お願いします!! 藤巻さん!!」

あたしは食い下がったが

「透子ちゃん、もう堪忍して……」

と藤巻さんはあたし達を教会の外に出し、
ドアを閉めガチャと鍵のかかる音がした。

「どうしよう……」

あたしがマシロを見ると

「ここまで漕ぎつけたんだ! 
このまま引き下がれるか!!」

とドアを睨みつけて言った。

「研究っつったて皆自分の事しか考えてねぇ。
テレポートシステムだって研究施設の奴らは
私利私欲の為に使うだけで世の中の為に使う気はさらさらない。
あいつらだって幸せになりたくて
テレポートの研究をしていたはずなのに、
内部じゃ足の引っ張り合いや人を出し抜く事ばかり。
一体何の為にやってんだって、幸せって何だよってずっと思ってた」

マシロ…… 一体未来の世界で何を見てきたのか?

あたしは何も言葉は掛けず、
ただ気持ちに寄り添う様にマシロの肩をぽんと叩いた。
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