第20話 顔に痣のある少女

文字数 1,252文字

次の日の学校は体育の授業があった。

梓山にいた時は赤井がウザくて
ほとんど体育の授業はサボってばっかりだったから、
運動なんて久しぶりだ。

「今日は100メートル走のタイム測るぞー!」

体育の教師がそう言って、
生徒たちは校庭の白い線が引かれたコースまで誘導された。
体育の授業はD組の女子と合同で、
E組から一人、D組から一人、ペアになって二人同時にタイムを計る。

列になって順番を待っていると

「E組の転校生でしょ? 
私、D組の秋山朱里(あきやましゅり)、一緒のペアだね。 よろしく」

と声をかけられた。
その子の頬には500円玉くらいの大きさの赤い痣があった。

「あぁ、よろしく」

あたしはそう応えた。

順番が回って来て教師が「ピー!」とホイッスルを吹く。
あたしと朱里は勢いよく駆け出した。

「14秒02!」

短距離ではあるが、久しぶりの全力疾走。
息が上がる。
少し遅れて朱里もゴールした。

「14秒27だって! 負けちゃった!」

てへっという感じで笑い、
朱里は自分のクラスの走り終わった子達が
各々休んでいる場所に向かった。

談笑しているクラスメイトの中で、
ひとりぽつんと一番後ろに座るのが見えた。

一日の授業が終わり、
「さて帰るか」と昇降口で靴を履き替えようとしていると、
下駄箱の影からひょいと大河が顔を出し、

「あ! いたいた! ちょっと来いよ!」

と言った。

大河に連れて来られたのは、
この間の体育館に繋がる渡り廊下が見下ろせる空き教室だった。

机が三つほどくっ付けて並べられており、
窓側を背に教師が座るような少し大きめの机に
大河はどかっと座った。

「ようこそ科学部へ!」

そう言って目の前の机を指差し、
あたしをその机に座るよう促した。

「え?」

あたしが言うと

「お前、どっか部活入んのか?」

と大河が言った。

「いや、特に決めてないけど」

あたしが言うと

「それじゃ、科学部に入れよ!」

と身を乗り出して言った。

「は? 科学なんてよくわかんないし!」

あたしは顔をしかめて答えた。

「部員として名前だけ貸してくれたらいいから!!」

大河は懇願するような顔で言った。
その顔を見ていたら、
まぁそのくらいならいいかという気になった。

「まぁ、暇だしそのくらいなら……
で、部員は何人いるんだ?」

「俺だけ!」

「はぁ!?」

思わず大きな声を出してしまった。

「頼むよ! 
半年前に立ち上げたんだけど、
部員がいないと廃部になっちまう!」

「あんた人気者なんだろ? 
だったら人気で部員集めりゃいいじゃねーか」

「誰でもって訳にはいかねーんだ。
俺の研究は外に漏らしたくない。
お前は秘密も抱えてるし、
ある意味俺はお前の弱みも握ってる」

そう言って眉をキュッと上げた。

「だったら研究はここじゃなくて
家でやってりゃいいんじゃねーの?」

あたしが言うと

「ある程度広さのある場所が必要なんだよ」

と大河は言った。

「な、だからお願い!!」

そう言って大河は手を合わせてぎゅっと目をつぶった。

「……わかったよ。
ただ部員になりゃいいんだろ!」

あたしはため息をついて言った。

「うん、それでオッケー! ありがとう!!」

大河は満足そうに笑った。

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