第9話 夜の東京

文字数 907文字

玄関を出るとそこはビルの最上階の部屋だった。
前にテレビか何かで見たペントハウスっていうやつ?

あいつら金持ちか……。

そう思いながら急いでエレベーターに乗り込み、建物の外に出ると、
そこは地元の梓山とは全く違う景色だった。

「これが東京なのか?」

コンクリートのビルや家が
所狭しと立ち並ぶ路地をとりあえず歩いた。
ポケットを探り財布を取り出すと、二千三百円ほど入っている。

ひとまず近くの駅から電車に乗って、今日は行ける所まで行こう。
どこかの駅のホームに泊まりになるかもしれないけど、
地元の駅まで着いたら駅員に事情を話して誰かに迎えに来てもらおう。

大通りに出ると、
地下鉄の駅まで300mという道案内が出ていたので、
それに従って歩いた。

地下鉄の駅に辿り着いたあたしは、券売機で切符を買おうとしたが、
画面に料金が表示されているものの、
普通画面の下か横にあるプラスチックのボタンが見当たらない。

東京の券売機は田舎とは勝手が違うな……。

えっと……と戸惑っていると、
パトロール中の警察官が近づいて来て、

「君は未成年か?」と声をかけてきた。

この時間制服でうろついていたら補導の対象だろう。
あたしは警官の質問には答えず、全力でその場から走り去った。

「こら! 待ちなさい!!」

背後から叫び声が聞こえたがあたしは振り切って逃げた。

エスカレーターを地上に向かって駆け上がり、
警官を撒くように路地を何度も折れ曲がった。
こういう時にこれまで培った逃げ方が役に立つ。

ビルの隙間に隠れ、はぁはぁと乱れた呼吸を整え、
「そうだ、家に電話をしよう」と思い立ち、
電話ボックスを探した。
しかし、どれだけ探せど電話ボックスは見つからなかった。

散々歩き回り、やっと見つけた電話ボックスに
10円を入れて自宅の番号をプッシュすると、
「この番号は現在使われておりません」とアナウンスが流れた。

「何でだよ!!」

何度も番号を確認し、
慎重にプッシュしたがアナウンスは変わらなかった。

仕方なく、一茶の家、コータローの家、小紅の家にも電話をしてみたが、
全て「この番号は現在使われておりません」のアナウンスになった。

「どういう事だよ……」

あたしは諦めて電話ボックスを出て、また歩き出した。
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