第92話 またな!

文字数 1,974文字

ペントハウスから走って10分ほどの学校に着くと、
校門はもう閉まっていた。

「登るか」

マシロは言いながら鉄柵に手をかけ、あたしと漂も門に近寄った。
するとハイビームでこちらを照らす車のヘッドライトが近づいて来て
その眩しさにあたし達は目を細めた。

ダークカラーのステーションワゴンが校門の前に急停車すると、
先ほどの黒づくめの男達が降りて来て、
チェスターコートの男が足早に近づき、
「どういう事かわかりますよね?」とマシロの肩に手をかけた。

マシロは目を見開き顔を強張らせ、その男を見つめた。

「一緒に来てもらいましょうか」

チェスターコートの男は言い、今度はマシロの腕をとった。

やばい!!

あたしはすかさずその男に走り寄り、
脇腹に思い切り中段回し蹴りを食らわした。

バスッ!! と重い音と共に、男は「ウッ」とうずくまった。

「このクソガキ!!」

ニット帽の男とモッズコートの男が、
あたしに向かって一歩踏み出したが、
今度は漂が手刀と得意の後ろ回し蹴りで男どもを一撃した。

「お、お前ら頼もしいな……」

マシロは苦笑いで言い、

漂は「透子、上達したな!」と笑った。

「それじゃ、急ぐぞ!!」

マシロが言い、あたし達は校門をよじ登り中に入った。

「はぁはぁ」と三人は全力で走り、
昇降口に辿り着くと、ガラス戸は鍵がかかっていた。

「くっそ!!」

マシロがガタガタと戸を揺らしたが、鍵は開かなかった。

「あ!」

漂が校門の方に目をやると、先ほどの男たちは柵を乗り越え、
わき腹あたりを押さえながらこちらに向かって来るのが見えた。

「もう来た!!」

あたしたちは昇降口を横に移動し、校舎の裏側に回った。
体育館に繋がる渡り廊下まで来ると、科学部部室はすぐ上だ。
しかし、そこから校舎内に入るガラス戸も閉まっていた。

「くそ! 何でだよ!!」

マシロはまた戸をガタガタと揺すったが、
鍵はしっかりと閉まっていた。

「仕方ねぇ!!」

漂は着ていたダウンジャケットを脱ぎ、手にぐるぐると巻いた。

「離れてろ!!」

そう言って拳でガラスを叩き割り、パリン!という音が辺りに響いた。

「気づかれたかな?」

そう言いながら漂はガラスの穴に手を突っ込んで、鍵を開け、
あたしたちはドアを開けてすぐ横の階段を二階に駆け上がった。

科学部のドアの前に立ち、
マシロは鍵を取り出したが、ガチャガチャとなかなか開かない。

「早く!!」

漂が叫んだが

「いかん、動揺しちまって!!」

とマシロは鍵を開けるのに手間取っていた。

「カチッ」と音がしてドアが開き、三人は中になだれ込むと、
マシロは装置のある方のドアの鍵も続けて開けた。

「こっちだ!!」

階下の方から男どもの声がした。

「うわ! 早いよ!!」

あたしが言うと

「とりあえず俺があいつらを制止する。
その隙にマシロは透子を送り出せ!!
その後俺がお前を送り出してやる!!」

漂はマシロに向かって言い、

「わかった!!」

とマシロはあたしを装置のある部屋に押し入れた。

「漂!! ありがとう!!」

部屋の中からあたしが叫ぶと

「いつかまたな!!」

と部屋の外から声がした。

「ねぇ、漂はあいつらに連れ去られたりしないの?」

あたしは心配になった。

「漂は手助けしただけで自身が装置を使おうとした訳じゃないから、
コアパーツを返せばおそらく永続的な拘束は免れるだろう。
ただ、記憶の一部を消される可能性はあるかもしれないが……」

漂の記憶がどこまで消されるのか気がかりではあったが、
ひとまず実験台にされたり研究施設に幽閉は免れそうで安心した。

そしてあたしは脚立に足をかけ、マシロはあたしの手をとって支えた。

「本当にこれでいいのか?」

マシロはあたしに最後の確認をした。

「うん」

あたしは頷いた。

「またいつか、会おうな」

マシロはそう言って手を離し、
あたしは脚立から透明のケースに入った。

「それじゃ、いくよ」

マシロは日付を1986年の10月13日に設定し、
ハンドルに手をかけた。

「透子の数式はもう入力してあるが、
送信先の場所の入力までは時間がなくて出来そうもない。
着地点はお前の想念にかかってるが大丈夫だな?」

マシロは言った。

「うん」

とだけあたしは頷き、

「マシロ……」

とあたしはアクリル板の壁に手のひらをあててマシロに顔を近づけた。

マシロはガチャ!とハンドルを回した。

あたしの周りに光の玉がいくつも浮かび上がった。

透明の壁の向こうでこちらを見つめるマシロの表情には、
別れの時を実感させる寂しさが滲み出ていた。
その顔に光の玉がいくつも重なり、今にもかき消されそうになる。

「マシロ!!」

あたしはマシロの名前を叫んだ。

「こっち来て!!」

光があたしを包む中、マシロはあたしの元に近づき、
透明の壁越しに手を合わせた。

そしてあたし達は透明の壁越しにキスをした。

サヨナラマシロ……

光があたしの体全体を包み込み、
ここに来た時のような心地よさに包まれながら、
あたしは光の中に溶け込んだ。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み