第4話 母さんの再婚

文字数 710文字

「透子、あんたまた職員室に呼び出されたのかい?
さっき担任の先生から電話があったけど」

その夜は台風接近で警報が出るくらいの大雨が降っていて、
母さんは仕事が臨時休業になったらしく、珍しくアパートにいた。

「カンケーねーだろ」

ふてくされたように言い、食べ終わった茶碗をシンクに運んだ。

「関係なくないでしょう!」

母さんは語気を強めたが、
自分の感情を収めるように言葉を飲み込み、こう続けた。

「透子、今日は話があるのよ」

そして奥の和室に行き、タンスの引き出しから何かを取って戻ると、
一枚の写真をテーブルに置いた。
そこには40代くらいの男の人と小学生くらいの男の子が写っていた。

「あのね」

伏し目がちに、だが少しはにかんだような表情で母さんは切り出した。

「母さん、この人と再婚したいと思ってるの。
同じ職場の人でね、
それで一度透子にも会ってもらいたいなって……」

「え?」

突然の告白に思わずあたしは言葉を失った。

「再婚したら透子にも少し楽をさせてあげられると思う。
それにあなたも寂しくないでしょう?」

母さんは頬を赤らめながらあたしの表情を伺った。
同時に沸き起こる、
むかむかと胃の中で熱を持った鉛が溶け出すような感覚。

「やだね」

咄嗟にそう応えた。

「え?」

母さんの表情が戸惑いに変わった。

「いい年して色気付いて気色悪いんだよ!
あたしはそんなおっさんやガキと関わりたくねーし!」

「でも、良い人たちなのよ」

「知らねーよ!!」

あたしは立ち上がり、奥の和室に入り、
仕切りのガラス戸をピシャッと閉めた。

あたしを置いて勝手に一人で幸せになんじゃねーよ……。

あたしは膝を抱えて部屋の隅にうずくまった。
窓の外からはザーザーと土砂降りの雨音が絶え間なく響いていた。

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