第59話 二人だけの夜

文字数 991文字

あたしはどうしていいかわからず、ひとまずテレビをつけた。

くだらないお笑い番組からは乾いた笑い声が流れてくる。
今晩は二人きりだと知ったらマシロはどうするだろうか……?
いや、奴は他に好きな人もいるし、そんな変な事はしないだろう……。

うんうん、と自分に言い聞かせて頷いていると

「あーー 腹減った!! 翠さんまだかなぁ?」

とマシロが階段から降りて来た。

「あ、あのあの……」

思わず口ごもる。

「何?」

マシロはいぶかしげにあたしを見ながらこちらに向かって歩いて来た。

「あぁ! 翠さんね! 
お友達が急病で今日帰れなくなったって!!」

妙なハイトーンボイスであたしは言った。

「え? そうなの!?」

マシロはあたしの前で立ち止まり、一瞬驚いて目を見開いた。

「なんだ…… そっか……」

そう言ってマシロとあたしは黙って立ち尽くし、
しばらくはテレビの音だけがリビングに響き渡った。

しばし沈黙が続いた後、

「そんじゃ」

とマシロはあたしの方を向いて顔を近づけ

「二人だけで皆がいたらできない楽しい事しよーぜ!」

と悪戯っぽく笑った。

「二人だけで皆がいたらできない楽しい事?」

「そう、とりあえず俺の部屋来いよ!」

「え!?」

あたしはこれから何が起こるのかという緊張から足がすくんだ。
マシロの部屋で何するの!?

「何変な想像してんだよ! 大丈夫だから来いよ!」

そう言われあたしはドキドキしながらもマシロの部屋に入った。

「えーーっと確かここに……」

とマシロはクローゼットの奥を何やらゴソゴソと探り始めた。

「あった! これこれ!!」

ズルズルと引っ張り出した物は、アウトドア用のテントだった。

「こんなのもある!」

そしてランタンや、バーベキューコンロも取り出した。

「すごい! 全部揃ってる!!」

「大河はアウトドア好きだったみたいだな。俺とは正反対だ」

そう言ってマシロは笑った。

それからあたしたちはアウトドアのセットを
ルーフバルコニーに持ち出し、
テントを立ててバーベキューコンロをセットした後、
ランタンとキャンドルを並べて火を灯した。

「わー! 素敵ーー!!」

二人はウェーーイ!とハイタッチをして喜んだ。

「隊長! 冷蔵庫に肉とウィンナー発見しました!!」

あたしが敬礼をしながらふざけて言うと

「うむ、でかしたぞ!」

とマシロは冗談に乗っかった。

食材をバルコニーに持ち出し、コンロの炭に火を付け、
あたし達は二人だけのバーベキューパーティーを開いた。
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