第30話 屋上

文字数 1,244文字

「朱里!!」

紺野は立ち上がって追いかけようとしたが

「お前は行くな!」

と大河は紺野を制し、「俺が行く!」と朱里の後を追った。

「待てよ!!」

思わずあたしも大河の後を追った。

朱里は校舎の階段を駆け上がり、屋上に飛び出した。
大河も後を追い、朱里の3、4メートル後ろで立ち止まった。
あたしは、はぁはぁと息を切らしながら、
階段と屋上の境のドアに手をかけ、その様子を見守った。

「誰あんた?」

朱里は少し振り返って言った。

「俺は二年の目黒大河だ」

「あぁ、ホワイトタイガーとか言われてる……」

そう言いながら朱里は金網に手をかけている。

「大河!! そいつよじ登る気じゃ!?
止めないと!!」

あたしは叫んだが、
大河は動くことなくそこに立ったまま朱里を見つめていた。

「紺野君は?」

朱里が聞いた。

「さぁ?」

大河は首を傾げた。

「私、もう死ぬから」

朱里はそう言って金網に足もかけ始めた。

「そうか、それじゃ警察に連絡すっか。
あ、センセ達にも連絡してきて!」

大河はポケットからスマホを取り出し、
あたしに向かって言った。

「は?」

あたしはぽかんとして聞いた。

「飛び降りた後の処理とかいろいろあんだろ?
あいつが死んでも俺には責任ねーし、
止めるのも俺の仕事じゃねぇ」

そう言ってその場所にあぐらをかいて座り始めた。

「それじゃ、警察呼ぶよーー」

そう言ってスマホを持つ手を上に上げた。

「人でなし!!」

朱里が叫んだ。

「あぁ、そうだよ」

キッと鋭い視線を朱里に向け、大河は言った。

「どうすんだよ?
飛び降りんのか降りないのか!?」

すると朱里はガシガシと金網を登り、柵の向こう側に降り立った。

「危ない!!」

あたしは思わず柵の近くに駆け寄った。

「死ねばいいんでしょう!!
あたしなんかいない方がいいんでしょう!!」

眼下の校庭を見下ろすと、
生徒がぱらぱらと外に集まってこちらを見上げていた。
その中には金田と紺野の姿もあったが、
二人とも腹を括った様子で黙ってこちらを見上げていた。

「体操部!! あれ持って来い!!」

見物人の中に混じっていた漂が生徒達に指示を出していた。

「死ねとは思ってねーけど。
まぁ、あんたがそうしたいなら止めないけど」

大河は相変わらず座り込んだままそう言った。

「冷たい人間ね!
人の温かみとか、優しさとかそういうのないの!?」

朱里は言った。

「どうでも良いけど、下見てみろよ。
結構人集まってんだろ?
飛び降りてもいいけど、首とか足とか変な方向に曲がって
みんなドン引きしちゃう姿晒すかもしんねーぜ」

「……」

朱里は黙った。
飛び降りた後のリアルな自分を想像したのか?
でも、今更戻るとは言えずに、
飛び降りる事も戻る事もできないように見えた。

「大河……」

あたしが話しかけると

「透子は黙ってろ」

と朱里の方を向いたまま大河は言った。

「どうすんだよ?
俺はどっちでも構わないぜーー」

大河は今度は手を頭の後ろに組んでその場に寝転び始めた。

朱里は唇を噛み締めて、金網に手をかけ、
こちらに方向を向き直ろうとした時、
バランスを崩したのか足を踏み外し、ふっと視界から消えた。
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