第35話 恋する漂

文字数 1,004文字


次の土曜日もあたしと漂はぷりずむ苑に向かった。

「透子!!」

紫苑はあたしを待っていたかのように駆け寄って来た。
もしかして懐かれている?
何だかちょっと照れくさい気持ちになった。

紫苑のスパーリングの相手をしていると、
葵さんがホールに顔を出して「今日も張り切ってるね!」と声をかけた。

「今日は洗濯物少ないから、少し時間あるの。
私もちょっと教えてもらおうかな?」

葵さんが言うと

「え! マジッすか!? 喜んで教えますよ!!」

と漂は意気揚々と答えた。

「耳真っ赤じゃん!!」

紫苑はぼそっとあたしに耳打ちした。

葵さんの腕の角度や肩の向きを直しながら、
漂の顔は確かに上気していた。

「そうそう良いですよ! 葵さん!」

これまで見た事もないキラキラした目。
男ってわかりやすいねーー。
あたしは紫苑とスパーリングしながら、横目で二人を見た。

そして稽古終わりに、
今日は葵さんがお菓子とジュースを用意してくれた。

「あれ? 藤巻さん今日はいないんですか?」

あたしが聞くと、

「そうなの、藤巻さん今日は出張でいないの」

と葵さんは言ってテーブルにお菓子とジュースを並べた。

「出張なんてあるんですね?」

あたしが聞くと

「そうね、時々。大阪にはよく行ってるわよ」

と葵さんは答えた。

「施設長ともなるといろいろあるんですね」

「そうね、まぁでも私は施設長の仕事は
そこまでわかってないんだけど」

と葵さんは肩をすくめた。

「そう言えば毎年やってるバザーは今年はないの?」

漂が聞いた。

「え? バザーなんてやるんだ!?」

あたしが言い、

「そうそう、バザー来週土曜日なのよ!
だからお稽古はお休みって伝えといてって言われてたんだ!」

思い出した様に葵さんが言った。

「今年も出店とかあるの?」

漂がビスケットを頬張りながら聞くと

「やきそばとかフランクフルトの屋台が出たり、
不用品を販売するフリーマーケットが出たり。
今年は高校生のバンドのステージもあるのよ」

「面白そう!!」

あたしが身を乗り出すと

「そう? だったら手伝ってくれるかしら?
毎年人手が足りなくて……」

と葵さんは言った。

「そんなの言ってくれればいくらでもやります! やります! な!!」

漂はテーブルに手をついて立ち上がり、
テンション高めにあたしに言った。
有無を言わさない雰囲気だな……
まぁ断る理由もないが……。

「いいですよ」

とあたしは葵さんに言うと

「ありがとう、それじゃ藤巻さんにも伝えておくね」

と葵さんはにっこりと微笑んだ。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み