第37話 バザー

文字数 1,252文字

バザー当日の土曜日がやって来た。

あたしと漂はエプロンを借りて、
施設の庭に立てられたテントの下で
やきそばとフランクフルトの担当を任された。

同じテントの隣では葵さんが甘酒とおでん、
ペットボトルのジュースを担当し、
反対隣では藤巻さんがチョコバナナとじゃがバターを担当した。

紫苑や他の子供達は、ヨーヨー釣りや輪投げなどのゲーム担当と、
フリーマーケットの店番に分かれた。

「さぁそれじゃ、オープンしますよーー!!」

藤巻さんの号令でバザーは開幕した。

近所のご家族や、子供達が来場し、
ぷりずむ苑はいつになく賑やかになった。

「透子! 来たよ!!」

いの一番にやって来たのは桃奈だった。

「ありがとう! 早かったじゃん!」

とあたしが言うと、

「面白そうだったから! あ、フランクフルト一本下さい!」

と桃奈は言った。

「あ、もう一本!」

人差し指を立てて桃奈の後ろから大河がにゅっと顔を出した。

「きゃー! 大河様!!」

桃奈は振り返り興奮して言った。

「こんな早くから外に出るなんて珍しいじゃん」

と漂が言うと

「俺だってたまには早起きしますよ!
桃奈ちゃん、一緒に回ろうか?」

とフランクフルトを手にしながら言った。

「きゃー! 良いんですか私で!!」

と言いながらも嬉々として桃奈は大河とともに
輪投げのコーナーに向かった。

フランクフルトと焼きそばは大盛況で、
あたしと漂は息つく暇もなかった。

「二人とも大丈夫?」

葵さんがあたし達を気遣った。

「全然大丈夫です!!」

額に汗を光らせながら漂はガッツポーズをしてみせた。

「あ、やってるじゃん!」

金田と紺野も姿を見せた。

「来てくれたんだ」

「あんたの仕事ぶりをチェックしに来た」

金田はにやっと笑った。

「焼きそば美味しそう」

紺野が言い

「特別なソースを取り寄せてるから美味しいよ!」

と漂が言うと

「それじゃ、焼きそば二つ」

と紺野は言って、
二人は「じゃーねー」とフリマの方に向かって行った。

「ふぅ」

と額の汗を拭うと、

「結構賑わってるやないの!」

と翠さんと理事長もやって来た。
二人の腕の中にはそれぞれレモンとライムも抱きかかえられている。

「爺ちゃん、翠さん、譲ってもらった
お酒もペットの服も売れてるっぽいよ」

と漂が言うのと同時に、レモンとライムの様子が変わった。

「ウーー」

と前にMoogleマップの売り込みが来た時の様な
唸り声を上げ始めた。

「レモン、ライム、どないした!?」

翠さんが怪訝な表情で言うと二匹は

「ワンワンワンワン!!!!」

とまた歯をむき出して鼻の頭にしわを寄せて吠え出した。

「こら!! 吠えたらあかん!! なんで吠えんの!?」

翠さんも戸惑い、漂も「こら!!」と慌てていた。

隣に立っていた葵さんも藤巻さんも驚いた様子で
レモンとライムを見つめていた。

「騒がしくてごめん、ちょっと外出とくわ」

翠さんと理事長はそう言って
ぷりずむ苑の敷地から出て行った。

「何だろう? 別に怪しい人なんていないのに」

あたしと漂は顔を見合わせた。

「誤作動したかな、あのバカ犬たち」

漂はやれやれと言った風に焼きそばの袋を開け、鉄板に追加した。

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