第22話 カビの生えた食パン

文字数 1,327文字

さらに科学部の部室を歩き回ると、妙なものを見つけた。

「うえ! 何これ!!」

壁際の棚の上にはびっしりと緑色のカビが生えた食パンが、
皿の上に置かれていた。

隣に並べられた皿には普通の食パンが置かれている。

「これな、隣の食パンと比べてみろよ」

「カビ生えた食パンと普通の食パンじゃん」

「あぁ、でもこれ同じ日に同じ袋から出した食パンなんだ」

「え?」

あたしは思わず二つの食パンを見比べたが、
同じ袋に入っていた食パンとは思えないほど、
片方だけ傷んでいる。

「全く同じ食パンに、片方には『お前はバカだ!』
とか『まずい』『捨ててやる』とか悪口を聞かせて、
片方には『素敵だね』とか『好き』『美味しそう』とか
良い言葉をかけたんだ。
すると不思議なことに悪口を言われた食パンは
三日目くらいからカビが生え始めて、
褒めた方の食パンは一週間経った今でもきれいなままだ」

「本当に!?」

あたしは驚いて言った。

「言葉の中にはもちろん物質は含まれないけれど、
エネルギーは含まれてるんだ。
悪意ある言葉が放つエネルギーには毒が含まれているんだよ」

「そうなの?」

「そう、だからそれを知っていたら
やたらめったらネガティブな言葉は発せられないんだ。
悪口じゃなくても自分が発した暗い言葉、汚い言葉を聞けば
一番近くでそれを耳にする自分が蝕まれていく。
そう言うの『言霊(ことだま)』とか言ったりする人もいるけどな」

「言霊……」

「人間やこの世の物質全ては素粒子からできている。
素粒子は物質でもありエネルギーでもある曖昧なものなんだ。
あ、ちなみにエネルギーってのは熱とか音とか
存在はしているけど物質ではないものの事ね。
で、良いエネルギーは同質の良いエネルギーを引き寄せ、
悪いエネルギーは同じく悪いエネルギーのものを引き寄せる」

「なるほど……」

あたしは頷いた。

「『割れ窓理論』って聞いた事あるか?
割れた窓をそのままにしてるといつしか他の窓も割られる様になったり
その場所にゴミが捨てられたりして荒れてくるんだ。
荒れた場所は荒らしてもいいって心理が働くんだな。
逆にきれいな場所を荒らそうとする人は少ない。
エネルギー、いわゆる『気』ってあなどれないんだ」

「へーー……」

初めて聞く話だったが梓山高校が荒れていたのは、
そういう理論が働いていたと言われれば納得いく。

「とまぁ、小難しい話はこのくらいにして……」

と大河は机の引き出しから”スマホ”を取り出した。

「機種変する前の俺のお古だけどまだ使える。
データも初期化しておいた。
部員になった記念にやる。
wi-fiの飛んでる所だったら通信もできるから」

「わいふぁい?」

「あぁ、そこから説明か……」

大河は頭を掻きむしった。

「電波の種類だよ。
そのスマホはキャリア契約してないから
wi-fiって電波が飛んでる所じゃないと電話やメッセージ送信ができない。
カフェとかショッピングモールとかは使える率が高い。
あ、あと家の中もwi-fi使える。
学校は使えないけど、俺の近くだったらポケットwi-fiがあるから使える」

「ちょっと今いろいろ言われても理解できないんだけど……」

あたしが戸惑っていると

「まぁ使ってるうちにわかるようになるって!
持ってると便利だからさ」

と言って大河は黒い無機質なスマホをあたしに手渡した。

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