第44話 喧嘩勃発

文字数 1,432文字

その日、桃奈と金田と出かける約束をしていたあたしは、
朝ラインで待ち合わせのやりとりをしていたので、
レモンとライムの散歩の時間が少し遅れてしまった。

「さて行くか」

と出かけようとした時、
翠さんが店から何か物を取りに来たようで玄関で鉢合わせた。

「透子ちゃん、まだ散歩行ってへんの!?
あの子ら外じゃないとおトイレせえへんのや。
はよ行ってやらんと可哀想やで!!」

と急き立てた。

「今行こうと思ってました!!」

思わず反抗的な口調で言ってしまった。

「なんやの! その言い方!!」

翠さんも負けずに言い返した。

あたしは二匹をカートに乗せてペントハウスを出た。
最初、翠さんの懐の深さにほっとした事もあった。
でも所詮は他人、優しかったのは最初だけか。
そんな事を思いながらカートを押し歩いた。

午後は桃奈と金田と最近出来た
スイーツが美味しいと評判のカフェに出かけた。

「あ! ティラミスがある!!」

あたしはすかざすそれを注文した。

「透子はティラミス好きだよね。
でもティラミスってなんか『平成』って感じ」

金田が言い

「あー、わかる!」

と桃奈も同意した。

昭和から平成をすっとばして令和にやってきたあたし。
こんな斬新なデザート、
この子らにとってはもう古いって感じなのか!?

「ねぇねぇ、Tok Tikのまおちゃん知ってる?」

桃奈はそう言って動画を見せてくれた。

「あー! この子可愛いよね!!」

金田も動画を見て言った。

「Tok Tik?」

あたしが桃奈に聞くと、

「そう、いろんな人がいろんな事について
短い動画を投稿してるの。見てると面白いよ」

そう言って桃奈はアプリをダウンロードしてくれて、
あたしはさっそく家に帰り、Tok Tikを見た。

音楽に合わせて踊る子達や、
メイクをする可愛らしい女の子。

最近の子は目が大きくて色が白い子が多いな。
そして髪の毛の色もいろんな色だったりで、
あたしがいた頃の同年代の子より洗練されていて
色彩がきれいだなと感じる。

短い動画が次から次へと出てきて最初は目が回りそうだったが、
慣れるとずっと見てしまう。

世の中にはいろんな人がいて、
会ったこともない人達がとても近くに感じる。
そして見ているとあっという間に時間が過ぎる。

すると

「透子ちゃん! ちょっと!!」

と襖の外から没入を打ち砕くかのような翠さんの声がした。

「何ですか?」

慌ててリビングに出ると、
ライムが片足を引きずって歩いていた。

「足の裏に棘が刺さってたんよ!」

翠さんが強い口調で言った。
散歩でちょっと歩かせた時に刺さったのかもしれない。

「あ……」

と何か言おうと思った瞬間

「気がつかんかったんか!?」

と言われ、何だか責められたような気がした。
そして私の服装を見て、翠さんは追い討ちをかけた。
あたしは外出時、シンプルなニットワンピを着ていた。
部屋に帰っても着替えずにそのままでいたのだ。

「着替えもせえへんで、ずっとその格好やったんか?
それにその服、ちょっと体のライン出すぎやで!!」

一度にいろいろ言われ、あたしもつい頭に血が上ってしまった。

「いちいちいちいち、うるせーんだよ!!
そんな言うなら散歩だって自分で行きゃいーじゃねーか!!」

「透子ちゃん!!」

翠さんは驚いたように声を上げた。

「何々どうした?」

と二階から大河と漂も顔を覗かせた。

あたしは何も言わず、
そこらへんに放ったらかしてあったショルダーバッグを手に掴み、
ペントハウスの外に飛び出した。

そもそもここで居候させてもらってる事自体違うのかも……。
あたしは地下鉄の駅まで走った。

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