第45話 新宿

文字数 953文字

最寄りの地下鉄の駅にあたしはたどり着いた。
そして券売機でICカードにひとまず1000円分チャージをした。

ここに来たばかりの頃、きっぷの買い方がわからずオロオロしたが、
この時代はタッチパネルと言って
画面自体がボタンになっている事を最近知った。

どういう仕組みになっているのか全くもって謎だが。

そしてあたしは新宿に向かった。
新宿から出ている特急に乗れば、梓山まで行ける。
そこでどうあたしが受け入れられるかわからないけれど……。
とにかく、あのペントハウスに
これ以上甘えるわけにはいかないと思った。

新宿に着くと、
行き交う人の多さにどこをどう歩いていいのか戸惑った。

東口と西口と、南口もあるのか……?
駅員にみどりの窓口を訪ね、あたしは特急の切符を買おうとした。

「6,900円です」

そう言われ財布を覗くと5,000円とちょっとしかなかった。

「すみません、やっぱりいいです……」

あたしはとぼとぼと、みどりの窓口を後にした。

新宿駅の東口を出ると、酔っ払いやサラリーマン、
これから出勤のホステスやホストが忙しなく歩いていた。

「これからどうしよう……」

あてもなく歩き、繁華街に入った。

あたしと同じような年頃の子が、路上に座り込んで喋っている。
その姿は梓山高校の倉庫に集まっていた連中とちょっと重なった。

「ねぇねぇ彼女! 一緒に飲みに行かない!?」

ナンパしてくる奴らをかわしながら歩いた。
どうしよう? どこかホテルに泊まろうか?
お金足りるかな?

キョロキョロと辺りの建物を見ながら歩き続けていると、
30代くらいの黒いジャンパーを着た男が近づいて来て、

「ねぇ、行く所ないの? 
もしなかったら高収入のバイトしない?」

と声をかけて来た。

「バイト? 何の仕事ですか?」

警戒気味に答えると

「可愛い衣装着て座ってるだけ!
簡単に稼げるバイトだから、すぐ埋まっちゃうんだ!
君、ラッキーだよ!!
それにもし希望するなら住む部屋も付いてるよ!」

とにっこり笑って言った。

「それ、本当ですか? 危なくないですか?」

あたしは男の顔を注意深く見ながら言った。

「大丈夫大丈夫!!
うちはこの界隈じゃ安全だから!!」

ずっとその仕事をする訳じゃない……
梓山に帰れる分だけでもお金が稼げれば……。

男のその言葉に促されて、
行くあてのないあたしはつい後をついて行ってしまった。

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