第6話 あたし、死ぬのか?

文字数 990文字


少し気持ちが落ち着いたあたしは、
午後からの授業は少し顔を出す事にした。
雨はもう止んでいた。

この世の中で誰かがあたしを気にかけてくれている。
それは誰しもが生きる上で必要な事なのかもしれない。
そしてそれは母さんにとっても……。

ふぅとひとつため息をついて、

「再婚かぁ」

と呟いた。

商店街を歩いていると、母さんの好きな和菓子店が目に入った。
店の前ではこの店の看板商品の栗蒸まんじゅう「秋の月」の
のぼりがはためいている。

「そう言えば母さん、『秋の月』が好きだったな」

ガラでもないけどなんとなく、
「秋の月」を買って帰ろうと思った。
そして鞄から財布を取り出そうとすると、
財布がない事に気が付いた。

「あれ?!」

スカートのポケットにも手を突っ込んでみたがそこにも無い。

「どっかで落としたのかな?」

今日はどうしても「秋の月」を買って帰りたかったあたしは、
学校に戻る事にした。

テスト期間が迫っているせいか、部活動も休みの所が多く、
夜の手前の薄暗い学校は静まり返っていた。

「ちょっと気味が悪いな……」

ドキドキしながら教室に入り、
机の中や床を見回したが財布は見つからなかった。

「ここじゃないとするとあそこか……」

あたしは裏山の倉庫に向かった。

キィ……とドアを開けると誰もいない。
ウロウロと倉庫内を探すと、
ビールケースのテーブルの上にあたしの財布があった。

昼間、泣いているあたしを気遣って
一茶がジュースを買って来てくれた時、
お金を払う払わないで財布を出したんだっけ。
ひとまずほっとして財布をスカートのポケットに入れた。

とその時、地面の奥底から地鳴りのような振動を感じ、
倉庫にある古い工具やテーブルがカタカタと小さな音を立てた。

「何? 地震!?」

あたしは思わず身構えた。

すると激しい振動と共に、
外からドゴーンとかバキバキとか木がなぎ倒される様な音がし、
グシャ、ガシャーン!と窓を突き破って
大量の土砂が倉庫に流れ込んで来た。

ガラスの割れる音やコンクリートが砕かれる音が辺りに響き、
逃げる間も無く粉々になった倉庫の棚や
壁材の混じる土砂に飲み込まれる中、
あたしの周りには不思議な光の玉が次々現れ、
それはだんだん大きなひと塊りになり、体を包み込んだ。

あたし、死ぬのか……?

あたしの体がその光に溶け込むような感覚の後、
あたしの体は光と一体となり、
何とも言えない心地よさに包まれながら、
どこかに向かっているような感覚がした。
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