第21話 未来の道具

文字数 1,005文字

科学部の部室は教室の半分が壁で仕切られていて、
壁の向こう側へ続くドアは閉じられていた。

「あっちの部屋は何?」

「あっちは実験装置があるんだ。
装置はまだ制作途中だから立入禁止!」

「何の実験装置?」

「それはまだ言えない!」

「ふーん」

そう言ってあたしは部屋を歩き、辺りを見回した。

ピカピカと光る直径5ミリくらいのライトが点滅している黒い箱に、
波形が右から左へ流れるモニター。
何だかよくわからない、
初めて見る機械が所々に置かれていた。

「あの大きいトースターみたいなのは何だ?」

棚の上の機械を指差して言った。

「あれは3Dプリンターだよ。
コンピューターで設計図さえ作れれば、何でも作れる。
これも3Dプリンターで作った」

そう言って持ち手がついた
プラスチックのコップを持ち上げた。

「隣の部屋の実験装置の部品なんかもこれで作ってんだ。
まぁ全部じゃないけど」

「すげーな、ほんとどらえもんの道具みたいなのが
この時代にはあるんだな」

あたしが言うとフフンと言った感じで大河は得意げに笑った。

「こんなのもあるぜ」

大河は机の引き出しからごついゴーグルの様なものを取り出した。

「何これ?」

「いいから付けてみ?」

あたしはそのゴーグルを訝しげに眺めた後、顔に装着した。
そしてゴーグルの中の景色を見てあたしは戦慄が走った。
その中で私はビルの屋上から突き出た
細長い板の上に立っていた。

「何これ!! どうしたらいいの!!」

「その板の先にいる子猫を助けたらクリアだ!」

「えぇーー!?」

板の先端に目をやると、子猫が心細そうにうずくまっていた。

「大丈夫! 落ちても現実じゃない」

大河はそう言うが確かにその通りなのだが足がすくむ。

「怖いんだけど!!」

そう叫びながらもそろりそろりと前に出てみた。
足の下を見ると、遥か下の方に車が走っている。

「うわぁ!」

あたしは足を踏み外して板から落ちた。

「きゃぁーーーー!!!!」

周りの景色もあたしの落下に合わせて急降下している。

「はい終了ーー」

大河はあたしからゴーグルを外し、
あたしは床の上にへたり込んだ。

「これはVR。 仮想現実ってやつだよ。
リアルだったろ?」

ニコニコしながら大河は言った。

「あぁ、とにかくすげー事はわかった」

「この仮想空間に絵を描いて、
それを3Dプリンターで形にする事もできる」

「そんな事もできるのか!? 未来のテクノロジーは!!」

子供の頃頭に描いた未来。
今、自分がその場に立っている事をひしひしと実感した。

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