第47話 救出

文字数 1,282文字

「あんたがこのままの生活でいいって言うならあたしは何も言わない。
でも、本当にそれでいいのか?」

あたしはチェリーの気持ちを確認するように顔を見つめた。

「今こうやって外に出られたんだ!
これまでの生き方変えるチャンスだぞ!!」

あたしは何とかチェリーにあの場から逃げて欲しくて必死で訴えた。

「それで……? あたしはどうすれば?」

チェリーが聞いた。

「きっと助けてくれる人がいる!」

あたしはチェリーの目を見て頷いた。

「わかった。あんたについてくよ」

そう言ってチェリーも頷いた。

そしてあたしは通りに出てタクシーを拾い、
なけなしのお金を払ってぷりずむ苑に向かった。

「藤巻さーん!」

そう言ってドンドンとぷりずむ苑の居住棟のドアを叩くと、

「透子ちゃん! あらあらこれは!?」

と寝間着姿で出て来た藤巻さんは驚きながらも、
チェリーを抱きかかえるように中に迎え入れた。
時計はすでに夜の12時を回っていた。

あたしはチェリーのいきさつを簡単に話し、
藤巻さんは理解を示した。

「あなた、年は18って言ったわね?」

「はい」

チェリーは頷いた。

「18歳までは児童養護施設に入れるわ。
ここはもういっぱいだから別の場所を……」

と言うと

「施設はもう嫌だ!!」

とチェリーは眉間にぎゅっと力を込めて目を閉じ、
両手で両腕でを抱きかかえるような仕草をした。

「何か…… 施設で嫌な思いをしたの?」

藤巻さんはそっとチェリーの背中をさすった。
チェリーは何も答えずに身を固くしていた。

「施設は酷い所ばかりではないわ。
私の知り合いの所はきちんとした職員の所ばかりよ。
安心していいわ」

藤巻さんは背中をさすり続けた。

「今日はもう遅いからあなたはここに泊まっていきなさい。
透子ちゃんは漂くんに迎えに来るよう連絡するわね」

「あ……」

止める間もなく、藤巻さんは漂に連絡をし、
30分くらいすると、漂と大河と翠さんが車で施設に駆け付けた。

「ほんまにすいません! こんな時間に!!」

翠さんは藤巻さんに何度も頭を下げた。

「透子ちゃん、どこ行ってたん!?」

翠さんはあたしに言い

「別に……」

とふてくされたように答えると
翠さんはキュッと口元に力を入れ、
パン!とあたしの横っ面を叩いた。

「どんだけ心配したと思ってんの!」

翠さんはポロポロと涙をこぼして、あたしを抱きしめた。
翠さん、そんなに心配してたんだ……。

「ごめんなさい……」

あたしが謝るとその様子を見ていたチェリーは

「良いお母さんじゃん」

と言った。

お母さんじゃないんだけども……。

チェリーを藤巻さんに託し、ペントハウスに戻ると

「今日はもう休み。私ももう寝るよ」

と翠さんはそれだけ言って自室に入って行った。

「翠さんとお前、なんか似てるよな……」

ニヤニヤして漂が言った。

「翠さん、子供がいないだろ?
親と離れ離れになったお前を見てて、親心が芽生えたんだろうな。
それに口煩いのも、また透子が親御さんの元に戻った時に、
大事な娘さんをだらしない子にしちゃってたら
申し訳ないって責任感もあるのかも。まぁ、ちょっと暑苦しいけど」

大河もそう言って笑った。

あたしは…… 大事にされているのか。
なんだか今夜は顔が熱かった。

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