第64話 お墓参り

文字数 1,153文字


「透子ちゃん、次はどこ行く?」

町役場の駐車場で、翠さんが運転席のドアを開けながら言った。

学校の跡地を訪れた後、
あたしはアパートのあった辺りを回ってみたが、
そこは区画整理が行われ新しい建物が並び、
町並みはすっかり変わってしまっていて、
どこがどこだかわからなくなっていた。

勿論、一茶やコータロー、小紅の家もわからずじまいだった。

ダメ元で役所も立ち寄ったが、やはり個人情報は教えられないと、
母さんの手がかりは何も得られなかった。

「あとは……」

これはあたし自身がなかなか決心がつかなかったのだが、
最終手段として母方のお墓に行こうと思っていた。
もしお墓にお母さんの名前が彫られていなければ、
まだどこかで生きている可能性がある。
でももし名前が刻まれていたら……。

事実を知るのは怖かったが、腹をくくってあたしは翠さんに言った。

「この先の西梓山町にあるお寺に向かってもらえますか?」

「オッケー」

翠さんは微笑んで、運転席に身を沈めた。

車は国道に出て10分ほど走り、目的のお寺に到着した。
お寺の境内の裏手から少し階段を登り、小高い丘の上に墓地がある。

「えっと…… うちのお墓は……」

あたしが先頭を歩き、その後をマシロ、漂、翠さんがついて歩いた。

「ここです」

あたしはそう言い、三人は墓石を見上げた。
あたしは墓前で線香の束に火をつけ手を合わせ、
おじいちゃんとおばあちゃんに挨拶をした。

私の感覚では半年前にお墓参りをしたばかりなのだけど……。

墓石の脇には中に埋葬されている人間の名前が彫られた
平たい石があった。

「お母さんの名前…… どうだ? 俺、見てやろうか?」

マシロが言ったが、

「いや、大丈夫」

とあたしは深呼吸をひとつして、石に刻まれた名前を確認した。

一番左にあるのが、新しくお墓に入った人の名前。
左から指で辿って名前を確認したが、母さんの名前はなかった。

「な、ない!」

あたしが顔を上げて三人を見上げると、
三人もひとまずほっとした顔を見せた。

「きっと大丈夫や。どこかにおるよ……」

翠さんが励ますように言った。

するとさっき登って来た階段から人の話し声と、足音が聞こえてきた。
そちらの方を何気なく見ると70代くらいの女性を支えるように歩く
40代くらいの男の人が見えた。
その女性が近づくにつれ、あたしの心臓は高鳴った。

「あ、あの人……」

あたしが言うと

「どうした?」

とマシロは言った。

「あれは…… 母さんだ……」

「え!?」

三人は同じ方向を見て、声を上げた。

あたしは身動きがとれずに立ち尽くしていると、
漂が被っていたハットをあたしの頭に乗せ、
ぐっとつばの部分を下げて顔を隠した。

母さんと男性はあたし達にだんだんと近づき、
こちらに気がついた。

「あらあらお線香あげていただいたの?
どちら様かしら?」

母さんが目を丸くし、あたし達に向かって言った。

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