第29話 金田VS朱里

文字数 1,464文字

「あいつ……」

スマホを手に金田はわなわなと震えていた。

「金田さん! どういう事ですか!?」

隣のクラスから朱里が憤りを隠さずに
E組の教室の金田の元にやって来た。

「こっそりと紺野君と二人で会うなんて
卑劣だと思いませんか!?」

強い口調で朱里は訴えた。

「あ、あれは!」

不意を突かれて金田は思わず言葉に詰まったが、
負けていなかった。

「あんただって最初に人の彼氏に手を出したんでしょうが!」

金田が言うと

「あたしが紺野君と付き合ったのがそんなに悔しいの!?
そもそも振ったのはそっちなんでしょう?」

と自分の事は棚に上げ、
微妙に論点をずらしてくるのは朱里の作戦なんだろうか?
金田は返事に困っていた。

「どういうつもりで二人でカラオケに行ったのか説明して下さい!!」

朱里はあえてそうしているのか、
皆に聞こえる様に大きな声で言った。

「公開処刑ね……」

桃奈があたしの耳元でささやいた。

戸惑いを見せていた金田だったが、
ここで気を取り直したように目にぐっと力を込めた。
しかし何も言わずにじっと朱里を見つめている。

「黙ってないで説明して下さい!!
あなたって人の物になると欲しくなる泥棒猫なの!?」

朱里は腹の立つ言葉を並べて
金田の怒りを煽っている様にも見えた。

「確かに浩輔を振ったのは私の方。
でも今は浩輔も私とやり直したがっている。
朱里には悪いと思ってる」

金田が落ち着いた様子で言った。

「浩輔がどれだけ傷ついてたと思ってるの!?
私がどれだけ彼を支えて来たか!!
あなたわかってるの!?」

朱里は大きな声で言ったが
金田は動じずに黙って朱里を見据えた。

なるほど、大河の言っていた意味が少しわかった気がした。
ここで反論したり、同じように罵声を返してしまうと、
また論点ずらしで揚げ足を取られるだけでなく、金田の印象も悪くなる。
でも、こうやって冷静に対処していると、
逆に朱里の方が一人感情的で空回っているように見える。

すると動じない金田を見て今度は

「お願い! 浩輔の事が好きなの!!
あの人がいないと私ダメなの!!
こんな私を好きになってくれる人なんて他にいない!!
だからあの人を私に返して!!」

と今度は涙を目に浮かべて懇願を始めた。
大河の話を聞いた後だと、何だか全てが芝居がかって見える。

「あんなに紺野のことが好きみたいだし朱里に譲ってあげれば?」

とギャラリーの中から声も聞こえたがあたしは
それは金田だって同じ気持ちなんじゃないのか!?と思った。

「やってんねー」

いつのまにか大河がギャラリーに混じっていた。

「大河! わざわざ二年の教室から来たのか!?」

「二年の間でも『なんか騒ぎになってる』ってザワついてたから」

そう言って大河は腕を組んで事の成り行きを見守った。

「悪いけど、浩輔の事が好きなのは私も同じ。
一度振った人を奪い返そうが、
そういう事、世の中じゃよくある事じゃ無い?」

冷静な目をして金田は言った。

「こわ……」

ギャラリーの中からはそんな声も聞こえた。

そこにバタバタと足音がして紺野がやって来た。

「朱里! すまない!!
俺、やっぱり莉子とやり直したいんだ!!
俺と別れてくれ!!」

そう言って紺野は床に膝をつき、土下座をした。

朱里は目を見開いて紺野を見つめていた。

「最初に莉子がいながら朱里に手を出した俺が全部悪いんだ!!
俺はやっぱり莉子が好きなんだ!!」

紺野は床に頭を付けて叫んだ。

「ひゅー! やるねーー」

大河はその場を楽しんでいるかの様に言った。

しばらく黙って立ち尽くしていた朱里が静かに口を開いた。

「そう、それじゃ私もう死ぬしかないから……」

そして朱里はその場を走り去った。
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