第8話 大河の話

文字数 877文字


あたしが「はぁ!?」と言うのと同時に
漂が「出たよ」と言った。

「こいつ、サイエンスおたくなんだ」

漂が呆れたような顔で続けた。

「バカ! 理論上ではありえない話じゃないんだぜ!」

大河は憤慨して言った。

「素粒子レベルではテレポーテーションはもう実験で実証されてんだ。
人間ほど大きなものはまだ無理とされてるけど」

そして得意げに説明を始めた。

「テレポーテーションって言っても現物が別の場所に移動する訳じゃない。
要するにファックスみたいな要領だな。
ファックスは紙の原稿そのものが
電線を伝わって飛んで行く訳じゃないだろ?
片一方の原稿の『情報』が伝達されてもう片方の紙にプリントされる。
同じく3Dの物体間でもその原理は理論上成立するって説はあるんだ」

「真面目に聞くな、頭おかしくなる」

漂が言った。

「なんか良くわかんねーけど、あたしは不審者じゃねぇ。
気づいたらここにいたんだ。 迷惑なら帰るよ」

そう言って立ち上がり、
部屋の外に出ようとドアノブに手をかけた。

「帰るってどこに? もう夜の10時だぜ」

大河が言った。

「梓山だよ。 
電車が走ってれば途中まででも帰れんだろ」

とあたしが言うと

「梓山……」と、大河と漂は顔を見合わせた。

「ちなみにここは東京だけど、梓山って数時間はかかるぜ」

漂が言った。

「東京?」

あたしは驚いて聞き返すと、
大河は窓を開けて「ほら」と外を指差した。

眼下に流れる川の向こう岸に巨大な水色に輝く鉄塔が見えた。

「何あれ?」

あたしが聞くと

「スカイツリーだよ。 知らねーのか?」

と驚いた表情で大河は言った。

何が何だか訳がわからず、不安になったあたしは

「帰る!」

と部屋の外に飛び出し、階段を降りた。

階段を降りた先はリビングルームになっており、
そこには膝にチワワを乗せた中年の女性と、
おじいさん?と言っていいくらいのおじさんが
ソファに座ってテレビを見ていた。

「きゃ! 誰!?」

女性があたしの姿を見ると驚いた顔をして言った。

「おい待てよ!」

と階段の上から双子の声が聞こえた気がしたが、

「お邪魔しました!」

とあたしはその女性とおじさんに頭を下げ、
逃げるように玄関から外に出た。
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