第3話 大人はわかってくれない

文字数 1,307文字


結局その日は授業に出ず、
一茶とコータローと市街地に出てゲーセンで遊び、
家に帰ったのは夜9時くらいだった。

築30年ほどの古びたアパートの階段を上がり、
真っ暗な玄関ドアを開けると小さなダイニングキッチンと、
奥の六畳の畳部屋が目に入った。

青白い蛍光灯の明かりを点けると、
ダイニングキッチンの二人がけのテーブルに
簡単な夕食が用意されていた。

あたしはそれを電子レンジであたため、一人で食べた。
母さんは毎日昼と夜の仕事を掛け持ちして、
夕食を一緒に食べる事は少ない。

「父さんと母さん、どっちと暮らしたい?」

小五の時そう聞かれたあたしは、母さんを選んだ。

母さんを選べば生活は質素なものになるだろうと予想はついた。
父さんを選べば中くらいの生活はできただろう。

ただ、いつも外出ばかりで顔を合わせる事の少ない
父さんと一緒の生活は想像がつかなかった。
それに、父さんは母さんと離婚してすぐに新しい女性と再婚をした。
おそらく結婚していた時から付き合っていたのだろう。

ふと14インチの小型テレビから
住宅メーカーのコマーシャルが流れた。

オレンジ色の照明の暖かそうな部屋の中で、
笑顔で団欒する家族。

あたしはチャンネルを切り替え、
ご飯にお茶をかけて口に流し込んだ。

数日後、仲間数人と学校帰りにスーパーマーケットの前を通りがかると、
そのうちの一人の小紅(こべに)が「今日もやる?」と、にやりと笑った。

「いいね」

あたしは賛同し、仲間たちは連れ立ってスーパーの店内に入った。

見張り役、実行役、実行役の衝立になる目隠し役。
あたしたちは周りをキョロキョロと見渡して、
お菓子売り場に向かった。

「ママーー!」

と、お菓子売り場から母親の元に一人の子供が走り去って行くと、
通路は誰もいなくなった。

「今だ!」

お互い目で合図し、目隠し役が実行役の手前に回り込んだ。
あたしは通路の交差する所で見張りをしていた。

すると実行役の反対側の通路にいた見張りの子が

「やばい! 逃げろ!」

と叫んだ。

はっとあたしは後ろを振り返ると、
店の奥から体育教師の赤井(あかい)がこちらを目掛けて
早足で歩いて来るのが見えた。

赤井は生徒指導も担っていて、
校内では竹刀を持って歩き回り、悪さをする生徒には容赦ない。

あたしは小紅達に続き、その場から逃げた。

「待て!!」

赤井は呼び止めたが、
みんなはシカトして店の外に飛び出し、全力で走った。

走ったが……

現役の体育教師、あっと言う間に距離を詰められる。

「げ! あたしがロックオンされてる!!」

必死で走ったが追いつかれ、
ぐいと乱暴に肩を掴まれた。

「お前! 何を盗った!?」

「何もしてねーよ!!
放せよ!! クソ教師!!」

あたしが大きな声で言うと赤井は
思い切りあたしの横っ面をひっぱたいた。

「店の店員に言って調べてもらう。
それ次第では明日おまえら全員の処分を決めるからな!」

赤井はそう言い残してこの場を立ち去った。

確かにあたし達は不良と呼ばれる部類の人間だろう。
でもそうなった背景に何があったのか、
大人たちは考えた事はあるのか!?

店の中に戻って行く赤井の後ろ姿を睨みつけた。

次の日、うちらの万引きは未遂だった事が判明し、
厳重注意だけで済んだ。

赤井からあたしへの謝罪の言葉は何もなかった。
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