第10話 救世主

文字数 1,273文字

それからあたしは橋のたもとに設置された階段から
川沿いの遊歩道に降りた。

綺麗に整備された遊歩道の側面は
コンクリートの堤防になっていて、
下半分は白と黒のなまこ壁のデザインになっており、
江戸の風情が感じられる装飾がなされている。

川幅150メートルくらいある大きな川の柵には
「すみだがわ」と書かれた看板が付いていた。

「隅田川……」

やはりここは東京なんだ。

あたしは確かに梓山で土砂崩れに遭って……
それが何で東京に?
本当にテレポーテーションしたのか?!

何もかも理解不能だった。
途方に暮れてベンチに座っていると、
さっきから数メートルほど離れた所でスケボーをしていた
若い二人組の男が声をかけてきた。

一人はキャップ帽にピアス、
一人はだぼっとしたトレーナーに長めのパーマヘア。

「お姉さん、こんな時間に何してるの?
帰るとこないの?」

ヘラヘラと笑いながらキャップ帽の男は言った。

「困ってんだったらさー。 うちおいでよ」

パーマの男があたしの腕を掴んだ。

「やめろ! 触んじゃねー!」

あたしは立ち上がり、その手を払いのけると

「くっそ生意気な女だな!」

と、キャップ帽の男が後ろからあたしを羽交い締めにし、
あたしの口を塞いだ。

「ふざけんな!!」

叫んだが声が出せない。

身をよじって逃げ出そうともがいていたその時、
背後のキャップ帽男のさらに後ろからドーンという衝撃があり、
あたしは男もろとも地面に倒れ込んだ。

「この野郎!!」

パーマの男が何者かに殴りかかろうと
腕を振りかぶり一歩前に出ると、
拳をかわされたのか己の勢いで前にすっ転んだ。

あたしは顔を上げて上を見ると、
さっきの双子の片割れの漂が空手の構えでそこに立っていた。

「ほんとは攻撃で使っちゃいけねーんだけど、
今は非常事態、何すっかわかんねーぞ!!」

そう言って漂は睨みを利かせて、
相変わらず空手の構えのポーズで立っている。

「なめんな!!」

あたしを羽交い締めにしたキャップ帽の男が立ち上がり、
漂に食ってかかると、漂は瞬時に体をくるりと高速回転させ、
見事な後ろ回し蹴りを男に食らわせた。

キャップ帽の男はその一撃でノックアウト。
その場に伸びてしまった。

「警察に通報しといた」

漂の後ろからは何やら四角く平べったい機械を耳に当てながら、
大河もやって来た。

ほどなくして、先ほど駅で声をかけてきた警官と
数人の警官がやって来て、男どもを連行して行った。

「コスプレして外を歩く罰ゲームをしていました。
すみません」

と大河が適当な嘘をつくと、

「夜も遅いからそういう遊びは控えて。 さぁもう帰りなさい」

とお巡りさんは注意だけして立ち去った。

「こんな時間に女子高生が一人で歩いてたらあぶねーだろ」

漂がぶっきらぼうに言った。

「君、家は梓山って言ってたけど帰れるのか?」

大河も言った。

「いや、今日は帰れそうもない……」

あたしは観念して言った。

「よかったらうちに泊まってけよ。
うちには変な奴はいない……
まぁちょっとクセ強めなのはいるけど、危険はない。
安心して大丈夫だ」

大河がにっこり笑って言った。

行き場のないあたしはひとまず今夜は
この双子の家に世話になる事にした。

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