第26話 カラオケボックスにて

文字数 1,210文字

驚いて部屋の前に立ち尽くしていると、中の金田と目が合った。

「あ……」

気まずそうな顔で向こうもこちらを見ている。
あたしが立ち止まっているので桃奈が呼びに来ると、
桃奈も部屋の中の光景を見て「金田さんと紺野君!」と声をあげた。

「違う!!
お願い、この事は誰にも言わないで!!」

懇願するような目で金田は言った。

「ちょうど良かった。
それじゃ、ここでナシつけようぜ」

とあたしが言うと

「って言うかさっきからナシって何?」

と金田はぽかんとした顔をし

「ナシって話って事だよ!!」

とあたしが言い直すと

「あぁ、話か……」

と納得した後、

「でも話しても誰も信じてくれないし」

と金田はそっぽを向いた。

すると

「お前はセリフも昭和だなーー
令和の時代はもっと軽やかにいこーぜー」

とあたしの後ろで声がし、

「なんの話?」

と大河がニッと笑いながらドアに手をかけて言った。

「ホワイトタイガー!!」

紺野君とやらは驚いて声を上げた。
結局あたしたち三人は金田と紺野のボックスに入り、
何故か一緒に歌う事になった。

「なぁ、カラオケ本は?」

あたしがテーブル周りを探しながら言うと

「いつの時代の話してんの?
ほんとにド田舎出身なのね!」

と金田はテーブルの上の機械を手渡した。

「これで曲名か歌手名を検索するんだよ」

桃奈が教えてくれた。

「あー! 俺『白目』歌おーー!」

大河はあたしの手から機械を奪い、さっさと選曲を始めた。

「私、『あいにゃん』いっていいですか?」

桃奈がはにかんだ様子で言い

「オッケーオッケー!!」

と大河ははしゃいだ。

「お先にどうぞ」

金田に言われ、あたしも予約送信すると
モニターに「中森美穂『少女C』を予約しました」と表示が出た。

「誰それ?」

みんなはぽかんとして顔を見合わせた。
トップアイドルの中森美穂はあたしの憧れなんだが……
そうか、知らんのか……。

それから五人は一通り気が済むまで歌い、

「何か飲もうかーー」

と大河は追加でドリンクを注文した。
色とりどりの炭酸飲料やジュース、冷たいお茶が届き、

「それじゃ、そろそろ話聞かせてもらおうか」

と大河はメロンソーダのグラスを片手に切り出した。

「何であんたが仕切ってんの?」

あたしが聞くと

「いや、この場だとなんとなく俺が年長者だし、
話しやすいかなと思って」

と大河はメロンソーダのストローをぱくっと加えた。

「二人、別れたんじゃなかったの?
紺野君は朱里と付き合ってるんじゃ……?」

桃奈もタピオカ入りミルクティーを飲みながら言った。

「莉子とは一度別れた……
確かに今は朱里と付き合ってる状態だ」

と紺野は気まずそうに言い

「でもこれから莉子とよりを戻そうって思ってる」

と顔を上げてしっかりと金田を見て言った。

「ヒューー!」

大河はそう言って

「別に戻れば良いじゃん! 
結婚してる訳じゃないんだし、
その朱里ちゃんて子には気の毒だけど」

そう言ってフライドポテトもつまんで口に放り込んだ。

「それが…… 一筋縄じゃいかなそうで……」

紺野が力なく答えた。
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