第48話 この世の仕組み

文字数 1,438文字

翠さんと仲直りしたあたしは、またいつも通りの日々を送った。

そして今日も科学部へ。
大河は今日もパソコンに向き合ってカタカタと何かをしていた。
そんな時、あたしはと言うと窓を拭いたり
ホコリ取りのハンドワイパーをかけたり、掃除に明け暮れた。

「ねぇ、隣の部屋、まだ見せてくれないの?」

「うーん、まだだめ」

大河はパソコンを見たまま言った。

「他に実験とかしないの?」

あたしがそう言うと

「実験というか、検証は常にしてるんだけどな」

と返ってきた。

「検証?」

「そう、科学と人の幸せの関係性の検証」

大河はパソコンからこちらに目を向けた。

「科学と人の幸せの関係性?」

あたしは大河の言葉を繰り返した。

「素粒子の性質と人間の幸せには関連があると思ってんだ。
その関連の法則に従って行動したら本当に幸せになんのかなって、
自分や周りの人間を観察してる」

大河は大真面目な顔で話を始めた。

「なぁ、この世の仕組みって知ってるか?」

「さぁ、考えた事もないけど」

「全ての物質は最小限まで細かくしていくと素粒子ってものになるだろ?
時間についても俺たちは一本の線で繋がっているものだと思っているけれど、
どんどん細分化していけば最終的にはごく短い瞬間の一枚絵になる。
この世は素粒子と一枚絵の集合体が煙みたいに漂っている
パラレルワールドなんだ」

「どういう事?」

あたしは顔をしかめて聞いた。

「素粒子は物質ともエネルギーともつかないものだって話はしたよな?
で、素粒子は人が見ていない所ではエネルギーで観測した時に物質になる、
つまり見える一枚絵が決まるって説があるんだ」

「それじゃ、あたしが見ていない時の物事は物質として
存在していないかもしれないって事!?」

「そう言う説を唱える学者もいる」

「そんなバカな!」

「そう、そんなバカな話を真面目に研究している人がいる。
かのアインシュタインはその説を否定したけど、
研究を進めれば進めるほどその説が、
否定し難いものになっていったとも言われている」

にわかには信じがたい話だった。

「時間の一枚絵は自分の意識する方向に
超高速のパラパラ漫画みたいに繋がっていく。
つまり観測する目が良いものを見ようとすれば良い世界が決定づけられる。
逆に悪いものを見ようと意識していれば、悪い世界が決定づけられる。
いろんな要素が絡み合って変えられない宿命もあるかもしれないけど、
意識次第でどっちの方向に向かうかある程度は選べるんだ」

「そうなの……?」

「そうそう、素粒子は同じ波長を持つもの同士が
引き寄せ合う性質があるから、
嬉しいものや楽しいものを見ようとすれば
同じく嬉しいものや楽しいものが集まり、
憎しみや妬みの感情に捕らわれていれば
同じく憎しみや妬みが自分に降りかかる。
でもそれって科学とか関係ない日常でもよく言われてる事なんだよ。
『笑う角には福来る』とか『類は友を呼ぶ』とかさ」

昔から人々の間で言い伝えられている諺、
ぼんやりと「そういうものだ」くらいにしか思っていなかったけど
科学的根拠があるって事なのか……?

でも確かに言われてみればこれまでの経験上、
あたしが尖った発言をすれば
尖った反応が返ってくる事は多かった。

「だから何事も良い方に考えていくのが大事って話!
はい、今日はもうこの話はおしまい!」

と言って大河はパン!と手を叩いた。

未来はすでに決められたものでもなく、
勝手に流れて行くものでもなく、
自分の心構え次第で行き先をコントロールできるって事か?

その話が本当だとしたら、
ぼんやりと生きる事は危うい事かもしれない。

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