第58話 温泉宿泊券

文字数 1,063文字


ペントハウスに戻ると、マシロはすでに起きていた。

「どっか行ってたの?」

「うん、買い物に行ってた。で、これが当たった……」

と先ほど抽選で当てた温泉の宿泊券を手渡した。

「すげーー!! 湯の中温泉!! 4人まで泊まれんじゃん!!」

そう言ってマシロははっとなった。

「湯の中温泉か……」

「うん……」

二人はしばらくの間黙り込んだ。

「どうすんだ? お前。行くのか?」

「うん…… こうやって宿泊券が当たったのも、
何かのお告げかなーーなんて。
もしかしたら、そこに行く事で
謎の解明の糸口みたいなものも掴めたりするかもって」

「気持ち的には大丈夫なのか?」

「うん…… 怖いけど……。
いつまでも怖がってちゃ事態は進まないのかなとも思う……」

マシロは「そっか」と一言言った。

「もうちょっとしたら冬休みになる。
そしたら俺と漂と翠さんで行こう。それで大丈夫か?」

確認をする様にマシロはあたしの顔を覗き込んだ。

「うん……」

あたしが小さく頷くと

「大丈夫だよ! 心配すんな!!」

とマシロはあたしの肩を叩いた。

あたしはそれから自分の小上がりの畳の部屋に寝転び、
温泉の宿泊券を眺めた。

いよいよ梓山に向かう……。

あの場所は変わってしまっただろうか?
みんなあの近くにいるのだろうか?

梓山の事を思っていたらいつの間にか眠り込んでしまったのか、
ふと目がさめると、もう部屋は暗くなっていた。

「あれ、もうこんな時間?」

時計を見ると午後6時を回っている。

「翠さん、そろそろ帰って来るかな?」

少しお腹がすいたなぁと思っていると、家の電話が鳴った。

「はい、もしもし」

電話に出ると翠さんで、何だか慌てた様子の声だった。

「あぁ、透子ちゃん!?
あのな、ドライブから帰ろ思って都心に向かってたんやけど、
途中で友達が急に『お腹痛い』言うてしんどそうやって、
病院に行ったんよ。
そしたら盲腸や言われて緊急手術になって今付き添ってるねん!」

「え! そうなんですか!?」

「そんで私、心配やからここで一泊してこうと思うんやけど、
透子ちゃん大丈夫やろか?
もし無理そうやったら私帰るけど……」

どうしたものか!?と思ったが、
翠さんのお友達も心配だ。

「あたし達は大丈夫です。
大河はやっぱり部屋にこもりっぱなしだし。
お友達についてあげて下さい」

そう言うと

「そうか? ごめんなぁ。
年頃の子たち二人にして心配やけど、あんたら信じてるで」

そう言う事言われたら余計に意識するではないか……と思ったが、
ひとまず大丈夫と告げ、電話を切った。

さて…… マシロはまだ二階にいるが、どうしよう……。

心臓がドキドキと早いリズムを刻んだ。

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